「エレガントなコード」という言葉を聞くと、上級者だけが扱う特別なテクニックのように感じるかもしれません。
しかし本質はもっとシンプルで、初心者のうちから意識できる考え方です。
本記事では、エレガントなコードの意味とメリットを整理しながら、特に初心者がまず押さえたい「読みやすさ」「シンプルさ」「一貫性」の3つのポイントを、具体例とともに解説していきます。
エレガントなコードとは?意味とメリット
「エレガントなコード」の定義
エレガントなコードとは、読んだときに「分かりやすく」「無駄が少なく」「迷いなく変更できる」コードのことを指します。

数学のエレガントな証明が、最小限のステップで本質を示すのと同じように、プログラムにおけるエレガンスも、過剰な装飾ではなく本質をすっきりと表現できているかが重要です。
機能が多い、高度なライブラリを使っている、高度な言語機能を駆使している、といったことはエレガントさの必須条件ではありません。
むしろ初心者でも読んで理解できるコードほどエレガントである、と考えてよいです。
エレガントなコードは、単に「動く」だけでなく、読み手に優しい構造と表現を持っていると言えます。
なぜエレガントなコードが重要なのか
プログラムは一度書いて終わりではなく、バグ修正や機能追加を通じて、長期間にわたって読み返され、変更され続けます。
そのときエレガントさが効いてきます。
エレガントなコードが重要な理由として、特に次のような点が挙げられます。
1つ目は保守性の高さです。
読みやすくシンプルなコードは、どこを直せばよいかがすぐに分かります。
逆に、読みづらいコードは、変更するたびに新たなバグを生みやすくなります。
2つ目は共同開発のしやすさです。
チーム開発においては、他人の書いたコードを理解する時間がコストになります。
エレガントなコードは、この理解コストを大きく下げてくれます。
3つ目は自分自身の未来のためです。
数週間前の自分のコードが読めずに「これ何書いたんだっけ…?」と困る経験は、多くの開発者が通る道です。
エレガントさを意識しておくことで、未来の自分が楽になります。
エレガントさと「かっこつけたコード」の違い
初心者が誤解しやすいのが、「難しいことをしているコード」=「エレガント」という思い込みです。

高度な構文やトリッキーな書き方を多用した「かっこつけたコード」は、一見プロっぽく見えるかもしれませんが、多くの場合エレガントさとは真逆の方向に進んでしまいます。
例として、JavaScriptで配列の合計を求めるコードを考えてみます。
// トリッキーな例(かっこつけたコードのイメージ)
const sum = arr.reduce((a, b) => a + b);
// 素直でエレガントに近い例
function sumArray(numbers) {
let total = 0;
for (const n of numbers) {
total += n;
}
return total;
}
前者は1行で済んでおり、言語に慣れた人にとっては確かに便利です。
しかし、初心者が多いチームや学習段階では、後者のほうが「何をしているかが一目で分かる」という点でエレガントと言えます。
エレガントさと「かっこつけ」は、しばしば逆方向に働くということを意識しておくとよいでしょう。
ポイント1: 読みやすさ(可読性)を最優先する
エレガントなコードの土台になるのが可読性です。
極端に言えば、同じ機能を実現できるなら、処理速度が少し遅くても、まずは読みやすさを優先すべきです。
特に初心者のうちは、「自分と他人が読めるコード」を書く練習だと考えるとよいです。
変数名・関数名を見ただけで役割がわかるようにする
可読性を上げるための最初の一歩は、名前の付け方です。
変数名や関数名から、役割が自然と伝わるようにしましょう。
悪い例と良い例を比べてみます。
// 悪い例
function f(a, b) {
return a * b * 0.1;
}
// 良い例
function calculateTax(subtotal, taxRate) {
return subtotal * taxRate;
}
前者は、何に対する計算なのかが分かりません。
一方、後者は「税金を計算している」ことが明確です。
処理内容を読まなくても、名前だけでイメージできることが、エレガントさにつながります。
短さよりも意味の明確さを優先しましょう。
タイピングの手間は、IDEの補完機能でほとんど解決できます。
1つの関数に1つの役割だけを持たせる
エレガントなコードでは、1つの関数が1つの責務だけを持つように意識します。
つまり、「関数名を見たときに、やっていることが1つに言い切れるか」を基準にします。
次のような関数を考えてみます。
// 悪い例:役割が多すぎる
function handleUser() {
const user = fetchUserFromApi();
saveUserToDatabase(user);
sendWelcomeEmail(user);
logUserCreated(user);
}
この関数は、データ取得、保存、メール送信、ログ出力と、複数の役割を持っています。
これを分割すると、次のようになります。
// 良い例:1関数1責務に分割
function fetchUser() { /* ... */ }
function saveUser(user) { /* ... */ }
function sendWelcomeEmail(user) { /* ... */ }
function logUserCreated(user) { /* ... */ }
function handleNewUser() {
const user = fetchUser();
saveUser(user);
sendWelcomeEmail(user);
logUserCreated(user);
}
分割後のほうが、どの処理がどこに書かれているかが明確になります。
テストや再利用もしやすくなり、これが結果としてエレガントな構造につながります。
インデントと整ったコードレイアウトで構造をはっきりさせる
コードの構造は、インデント(字下げ)とレイアウトによって視覚的に表現されます。

インデントが乱れていると、正しいロジックでも即座に「読みにくい」印象を与えてしまいます。
// 悪い例:インデントが乱れている
if (isLogin) {
doSomething();
if (isAdmin){
doAdminTask();
}
}
// 良い例:インデントが整っている
if (isLogin) {
doSomething();
if (isAdmin) {
doAdminTask();
}
}
どちらも処理内容は同じですが、後者はブロックの始まりと終わりが一目で分かるようになっています。
インデントは、エディタの自動整形機能を使うだけでもかなり改善できます。
コメントは「なぜそう書くか」を説明するために使う
コメントも可読性を高める道具ですが、「何をしているか」を説明するコメントは、基本的には不要です。
コード自体と名前付けが適切であれば、処理内容は読み取れるはずだからです。
コメントは主に「なぜそう書く必要があるのか」を説明するために使うと、エレガントさを保てます。
// 悪いコメントの例
// total に price を足す
total = total + price;
// 良いコメントの例
// 一部の決済システムの仕様により、合計金額は小数第2位で四捨五入する必要がある
total = round(total + price, 2);
後者のコメントがない場合、四捨五入処理を「不要だから消そう」と誤って削除されるリスクがあります。
ビジネスロジックや外部仕様など、コードからは読み取りにくい理由をコメントに残すことで、将来の自分や他人を助けることができます。
ポイント2: シンプルな構造(シンプルさ)を保つ
エレガントなコードは、できる限りシンプルな構造を目指します。
ここでいうシンプルとは「機能が少ない」という意味ではありません。
必要な機能を、必要最小限の複雑さで実現している状態のことです。
まずは動くコード、次にシンプルにするリファクタリング
初心者が迷いやすいのが、「最初から完璧なエレガントコードを書こう」として手が止まるパターンです。
実務でも学習でも、順番としては「まずは動くコードを書く」「その後にシンプルに整える」で構いません。
この「動くコードを書いた後で、構造を整理していく」作業をリファクタリングと呼びます。
// 最初にとりあえず動かしたいコード
function applyDiscount(price, type) {
if (type === 'VIP') {
return price * 0.8;
} else if (type === 'STUDENT') {
return price * 0.9;
} else if (type === 'EMPLOYEE') {
return price * 0.7;
} else {
return price;
}
}
// 後からシンプルにリファクタリング
const discountRates = {
VIP: 0.8,
STUDENT: 0.9,
EMPLOYEE: 0.7,
};
function applyDiscountRefactored(price, type) {
const rate = discountRates[type] ?? 1.0;
return price * rate;
}
後者のほうが、条件が増えてもコードが複雑になりにくい構造になっています。
最初からここを目指すのではなく、「まず書いてから、こう直せないか?」と考える習慣が、エレガントさへの近道です。
「同じコードを書かない(DRY原則)」で重複を減らす
シンプルさを保つ重要なルールにDRY原則(Don’t Repeat Yourself)があります。
これは「同じ意味を持つコードを、複数の場所にコピペしない」という考え方です。
// 悪い例:同じロジックが重複している
function createUser() {
// ...
sendEmail(user.email, 'welcome');
}
function resetPassword() {
// ...
sendEmail(user.email, 'reset');
}
同じsendEmailロジックを何度も書いていると、仕様変更があったときに全ての場所を修正しなければならず、漏れが発生しやすくなります。
// 良い例:共通化してDRYにする
function sendUserEmail(user, type) {
sendEmail(user.email, type);
}
function createUser() {
// ...
sendUserEmail(user, 'welcome');
}
function resetPassword() {
// ...
sendUserEmail(user, 'reset');
}
「あれ、この書き方さっきもどこかで書いたな?」と感じたら、共通化できないかを検討してみると、コードのエレガントさが一段上がります。
条件分岐(if文)とネストを深くしすぎない工夫
複雑さの大きな原因の1つが、深いネスト構造です。

if文やループが何重にもネストすると、頭の中で全ての条件を追うのが難しくなり、バグの温床になります。
// 悪い例:ネストが深い
function processOrder(order) {
if (order) {
if (order.paid) {
if (!order.canceled) {
ship(order);
}
}
}
}
これを、「早期リターン(ガード節)」を使って平らにしてみます。
// 良い例:ネストを浅くする
function processOrder(order) {
if (!order) {
return;
}
if (!order.paid) {
return;
}
if (order.canceled) {
return;
}
ship(order);
}
後者のほうが、どの条件で何が起きるのかが一目で追いやすいはずです。
if文やネストが増えてきたら、それ自体が「もう少しシンプルにできないか?」というサインだと捉えるとよいでしょう。
ライブラリや標準機能を活用して自前実装を減らす
シンプルさは、「自分で書くコード量を減らす」ことでも達成できます。
標準ライブラリやよく使われる外部ライブラリには、すでに十分にテストされた便利な機能が揃っています。
「全部自分で1から書くこと」が偉いわけではありません。
むしろ、信頼できる機能は積極的に使い、自分はビジネスロジックの表現に集中するほうがエレガントです。
// 自前で日付フォーマットを書いてしまう例(イメージ)
function formatDate(date) {
// 年月日や0埋めなどを自力で実装...
}
// 良い例:標準APIやライブラリを使う
import { format } from 'date-fns';
const formatted = format(new Date(), 'yyyy-MM-dd');
もちろん、「なぜそのライブラリを使うのか」を理解したうえで使うことが重要です。
ただし、車輪の再発明に時間をかけるよりも、既存の標準機能を知り、適切に活用するスキルこそが、エレガントなエンジニアリングにつながります。
ポイント3: 一貫性のある書き方
エレガントなコードは、1ファイルの中だけで完結しません。
プロジェクト全体を通して、同じルール・同じスタイルで書かれていることが、エレガンスの大きな要素になります。
人は「違い」を見つけると、そこに意味を探そうとするからです。
コーディング規約に従うことがエレガントさにつながる
多くの言語やフレームワークには、公式または事実上のコーディング規約があります。

例えば、JavaScriptならAirbnb JavaScript Style Guide、PythonならPEP 8が有名です。
これらの規約は、「どちらでも動くけれど、チームとしてはこう書こう」という合意を提供してくれます。
一見すると細かいルールの集合ですが、迷う時間を減らし、全員のコードが同じ方向を向くという大きなメリットがあります。
コーディング規約に従うことは「自分の好みを押し出すことよりも、チーム全体の読みやすさを優先する」という姿勢の表れでもあり、それ自体がエレガントと言える行動です。
命名ルール・ファイル構成・コメントスタイルをそろえる
一貫性は、単一ファイルの中だけでなく、プロジェクト全体の命名や構成にまで広げて考える必要があります。
例えば、次のような観点があります。
- 変数・関数・クラスの命名ルール(camelCase、PascalCase、snake_caseなど)
- ファイル名やディレクトリ構成(機能別にまとめるか、レイヤー別に分けるか)
- コメントの書き方(言語、日本語/英語、タグの使い方など)
悪い例として、同じ意味のものがファイルごとに違う名前で呼ばれている状況を想像してみてください。
user.js → customer を表す変数名: user
customer.js → customer を表す変数名: customer
member.js → customer を表す変数名: member
これでは読む人が「結局どれが顧客なのか?」と毎回悩むことになってしまいます。
エレガントなコードベースでは、同じ概念には常に同じ名前を使います。
表にすると、次のような項目を意識するとよいでしょう。
| 項目 | そろえる対象 | 例 |
|---|---|---|
| 命名ルール | 変数・関数・クラス名 | 関数はcamelCase、クラスはPascalCase |
| ファイル構成 | ディレクトリ、ファイル名 | services/配下にビジネスロジックを集約 |
| コメントスタイル | コメントの言語・形式 | すべて日本語、JSDoc形式を使用 |
「どのファイルを開いても、同じルールで書かれている安心感」は、プロジェクト全体のエレガントさを大きく底上げしてくれます。
チームで書くことを前提に「他人が読んでも迷わない」コードにする
最後に、エレガントなコードの視点を「他人が読んだときの体験」にまで広げてみましょう。
たとえ1人で開発していても、未来の自分は「他人」と考えて差し支えありません。
エレガントなコードを書く人は、常に次のような問いを持っています。
- この処理の意図は、初見の人にも伝わるだろうか?
- この関数名で、チームメンバーは誤解しないだろうか?
- ここで驚くようなトリックを使っていないだろうか?
「驚き最小の原則(Principle of Least Astonishment)」という考え方があります。
これは、利用者や読者が「そう動くだろう」と期待する通りに動作・振る舞うべきという原則です。
コードにも同じことが言えます。

エレガントなコードとは、自分のためだけでなく、他人を思いやるコードでもあります。
まとめ
本記事では、「エレガントなコード」の正体を、初心者の方にも意識しやすい3つのポイントに分けて整理しました。
1つ目は読みやすさ(可読性)です。
名前の付け方、1関数1責務、インデント、コメントの使い方を丁寧に整えることで、コードはぐっとエレガントになります。
2つ目はシンプルな構造です。
まずは動くコード、その後にリファクタリング。
同じコードを繰り返さず(DRY)、条件分岐やネストを浅く保ち、標準機能やライブラリを活用することで、必要最小限の複雑さに抑えられます。
3つ目は一貫性です。
コーディング規約に従い、命名ルールやファイル構成、コメントスタイルをそろえることで、プロジェクト全体が「どこを開いても同じように読める」状態になります。
これは、チームや未来の自分に対する大きなギフトです。
エレガントなコードは、特別な才能や高度なテクニックがないと書けないものではありません。
「読む人の立場に立ち、分かりやすさ・シンプルさ・一貫性を少しずつ改善していく姿勢」そのものが、エレガントなエンジニアへの第一歩です。
今日書く1行から、ぜひエレガンスを意識してみてください。
