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プログラミングでの並行処理と並列処理の違いとは?

並行処理と並列処理は名前が似ているため混同されやすい概念ですが、プログラムの構造や性能に与える影響は大きく異なります。

本記事では初心者向けに、両者の定義や使いどころ、注意点、具体的な始め方までを段階的に解説します。

違いを正しく理解すると、コードの見通しや実行速度の改善に直結します

並行処理とは?初心者向けの基本

並行処理の定義とイメージ

並行処理は、複数の作業を「同じ時間帯に進める」ための設計や実行の考え方です。

1つのCPUでも、タスクの切り替えを素早く行うことで、まるで同時に進んでいるかのように見せられます。

例えば1人で家事をする時、洗濯を回しつつ、煮込み料理を火にかけ、その間に掃除を進めるようなイメージです。

実際には瞬間瞬間で1つずつ処理していますが、待ち時間を別の作業で埋めることで全体の効率が上がります

用語メモ

並行処理では、タスクやスレッド、イベントループといった用語が登場します。

タスクは作業単位、スレッドは実行の器、イベントループは非同期の「呼び出し順序」を回す仕組みと捉えると整理しやすいです。

JavaScriptのランタイムやPythonのasyncioは、イベントループ型の並行処理の代表例です

よく使う場面(I/O待ちやネットワーク)

並行処理が強いのは、I/O待ちが多い処理です。

ディスク読み書き、データベースアクセス、HTTPリクエスト、メッセージキューなどは待ち時間が支配的になりがちです。

この待ち時間の間に別の作業を進められるため、非同期実行にするだけで体感速度やスループットが改善します。

ユーザーインターフェースの応答性確保や、APIサーバーの同時接続処理などに特に有効です

具体例でのイメージ

例えばAPIサーバーが外部サービスに2件のHTTPリクエストを送る場合、順番に待つのではなく、同時に投げてどちらも待つようにすると、合計待ち時間を短縮できます。

これはCPUをより使うわけではなく、待っている時間を別のタスクに使う工夫です。

メリットと注意点(切り替えで効率化)

並行処理の最大の利点は、待ちを隠蔽して全体の処理時間を短縮できることです。

加えて、UIのブロッキングを避け、システムのスループットを向上させます。

一方で、タスク切り替えのオーバーヘッドや制御の複雑化に注意が必要です。

特に、非同期関数の中でブロッキングI/Oを実行してしまうと全体が詰まるため、非同期対応のAPI(await fetchawait db.queryなど)を選ぶことが重要です。

実行順序の非決定性

並行処理では、完了順序が実行ごとに変わる非決定性が発生します。

ログの整理や結果の集約順序を前提にしない設計が必要で、タイムアウトや再試行の戦略も取り入れると堅牢になります。

プログラミングでの並行処理の例(非同期)

実装の第一歩は、言語が提供する非同期APIを使うことです。

JavaScriptではasync/awaitPromise.all()、Pythonではasyncio.gather()、Goではgo func()とチャネルで自然に並行化できます。

ミニ例

  • JavaScript: await Promise.all([fetch(A), fetch(B)]) で2リクエストを並行化します。どちらもI/O待ちなのでCPU負荷は大きく増えません
  • Python: await asyncio.gather(task1(), task2()) で複数のコルーチンを進めます。内部でawait可能な非同期APIを使うことが前提です
  • Go: go download(url) と複数起動し、WaitGroupで待ち合わせます。ゴルーチンは軽量でI/O並行処理に適します

代表的な並行処理APIマップ

言語代表機構典型用途メモ
JavaScriptasync/await, PromiseHTTP, DB,ファイルI/O単一スレッドのイベントループ
Pythonasyncio, TrioネットワークI/OブロッキングI/Oを避ける
Gogoroutine, channelサービス間通信ランタイムがスケジューリング
.NETasync/await, TaskWeb/API, UI同期APIと混在させない

言語ごとの「非同期対応API」を選ぶことが成功の近道です

並列処理とは?初心者向けの基本

並列処理の定義とイメージ

並列処理は、物理的に複数の計算資源で同時に実行することです。

複数のCPUコア、GPU、別マシンなどで、同一時刻に処理が進みます。

例えると、複数人で同時に家事を分担する状況で、真に同時に手が動いています。

並行と並列の交差

並列処理はしばしば並行処理の一形態として現れますが、並行だからといって必ず並列ではない点に注意します。

1コアでも並行は可能、並列には2コア以上が必要です。

よく使う場面(CPU計算や大量データ)

並列処理が力を発揮するのは、CPUを酷使する計算タスクです。

数値シミュレーション、機械学習の訓練、画像・動画のエンコード、大量データのバッチ処理、並列ビルドなどが好例です。

問題を独立した小さな部分に分割できるかが成否の分かれ目です。

データ並列とタスク並列

  • データ並列: 同じ処理を大量のデータに適用します(例: 1万枚の画像を各コアで分担)。
  • タスク並列: 異なる処理を別コアで進めます(例: 前処理と学習を分担)。

必要な環境(CPUコア数)

並列処理の速度は、利用可能なコア数とメモリ帯域に強く依存します。

4コアCPUなら最大4つのスレッドが真に同時実行可能で、超並列はGPUや分散システムの出番です。

スレッドをコア数より過剰に作ると、逆に遅くなることもあります。

キャッシュ効率やNUMA配置も影響し、データ局所性の良い分割が重要です。

理論上の上限と現実(アムダールの法則)

タスクのうち並列化できない部分があると、全体の加速には限界があります。

アムダールの法則では、直列部分が10%あると、無限コアでも最大10倍ではなく約10倍未満にしかなりません。

並列化前に直列ボトルネックを削ることが効きます。

プログラミングでの並列処理の例(スレッド/プロセス)

並列化は、スレッド、プロセス、ベクトル化、GPUなど複数の手段があります。

初心者はまず高水準のプールを使うと安全です。

ミニ例

  • Python(プロセス並列): concurrent.futures.ProcessPoolExecutor を使い、CPUバウンド関数をexecutor.map(fn, data)で分配します。GILの制約を避けやすいです。
  • Python(スレッド並列): ThreadPoolExecutor はI/O向き。CPU計算はGILで伸びにくいことに注意します。
  • Java: ForkJoinPoolparallelStream()で分割統治を並列実行します。ワークスティーリングが効きます。
  • C++: std::asyncstd::execution::par でアルゴリズムを並列化します。
  • 数値計算: numpyBLAS/MKLは内部で並列最適化済みです。自前でスレッドを書かずに速くなることがあります。

並行処理と並列処理の違い

同時進行と同時実行の違い

両者の核心は、並行は同時進行、並列は同時実行です。

並行は「順番をやりくりして待ちを隠す」設計で、並列は「同時に複数の演算器で処理する」実行形態です。

1コアでも並行は可能、並列には複数コアが必要という要件が分岐点です。

対比表

観点並行処理並列処理ポイント
目的待ち時間の活用計算の加速ボトルネックが違う
主戦場I/O待ちCPU計算適材適所で選ぶ
必要資源1コアでも可複数コア以上GPUや分散も含む
危険ブロックI/O混入競合・帯域飽和監視と計測が鍵

適切な選択が性能と安定性を大きく左右します

例で理解(一人で家事vs複数人で家事)

1人が洗濯機を回しつつ掃除と料理を切り替えるのが並行処理、家族で役割分担して同時に進めるのが並列処理です。

並行は切り替えの段取り、並列は人数と手の数という違いが直感的に理解できます。

性能の違いと限界(思ったほど速くならない場合)

並行処理は、待ちが多いほど効きやすい一方、CPU計算が支配的だと伸びません。

並列処理は、分割できる部分が多いほど伸びる一方、同期やデータ転送のオーバーヘッド、メモリ帯域の限界で頭打ちになります。

PythonではGIL、JavaやC++でもロック競合、キャッシュミス、false sharingが停滞要因です。

代表的なボトルネックと対策

ボトルネック影響対策
ブロッキング呼び出しイベントループ停止非同期APIに置換
ロック競合スループット低下粒度調整/ロック分割
データ転送過多並列効果が相殺バッチ化/局所性改善
コア過剰利用文脈切替で遅延プールと上限設定

「なぜ遅いか」を計測し、対策をピンポイントで当てることが重要です

どちらが向くかの判断ポイント

判断はシンプルに、主な待ち時間がI/OかCPUかで分けます。

I/Oなら並行処理、CPUなら並列処理が第一候補です。

両者を組み合わせる設計も一般的で、例えば「多数のファイルを非同期で読み込みつつ、読み込んだ塊をプロセスプールで並列計算」する構成が有効です。

プログラミングでの選び方と始め方

選び方の目安(I/Oは並行処理, 計算は並列処理)

最初の分岐は、待つ時間が長いなら並行、計算が長いなら並列です。

APIサーバーやスクレイピング、チャットクライアントは非同期I/Oが効きます。

動画エンコード、特徴量計算、統計集計は並列計算が効きます。

測定してボトルネックを確かめることで判断の精度が上がります。

具体的シナリオ

  • スクレイピング: 非同期HTTPで多数URLを同時進行し、解析は軽ければ同じスレッドで、重ければプロセスプールへ。
  • データ前処理: ファイルI/Oを並行しつつ、CPU重い変換を並列で。

初心者におすすめの手法(非同期APIから)

最も低リスクなのは、高水準の既成APIを使うことです。

JavaScriptはasync/awaitPromise.all()、Pythonはasyncioaiohttp、並列ではconcurrent.futuresのプール類が扱いやすいです。

まずは1ファイル/1関数を並行・並列化して体感することが上達の近道です。

最初のサンプル

  • I/O並行: await Promise.all(urls.map(fetch))
  • CPU並列: with ProcessPoolExecutor() as ex: ex.map(fn, data)

小さく試すコツ(計測とデバッグ)

成功の鍵は、小さく作って計測することです。

時間計測はtime.perf_counter()(Python)やconsole.time()(JS)で簡単に始められます。

逐次版→並行/並列版→比較の順で、差分が本当に効果由来かを確かめます。

ログにはIDやタイムスタンプを入れ、実行順の非決定性を追いやすくします。

テストの工夫

  • 少量データで結果一致を先に確認し、大量データで性能を測ります。
  • タイムアウトや再試行の閾値を本番に近づけます。
  • 乱数はシード固定で再現性を高めます。

よくある落とし穴(共有データの扱い)

最も多いバグは、共有データの同時書き込みです。

データ競合は再現性が低く、発見が難しいため、LockQueue、イミュータブルデータの採用で避けます。

非同期ではイベントループ内でブロッキングI/Oを呼ぶのが禁物です。

PythonではCPU計算をThreadPoolExecutorで行ってもGILに阻まれやすく、ProcessPoolExecutorやC拡張/NumPyの利用が効果的です。

例外がスレッドやプロセスにまたがる際の伝播にも注意し、結果の検査を必ず行います。

まとめ

並行処理は、待ち時間を別作業で埋めて効率化する技法で、I/O中心の場面に最適です。

並列処理は、複数の計算資源で同時に走らせて計算を加速する技法で、CPU中心の場面に最適です。

両者は対立概念ではなく、適材適所で組み合わせることで最大の効果が得られます。

まずは逐次版を用意し、非同期APIや実行プールを用いて小さく並行・並列化し、計測で効果を確かめてください。

「何がボトルネックか」を測って選ぶことが、シンプルで再現性の高い高速化への最短ルートです。

この記事を書いた人
エーテリア編集部
エーテリア編集部

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