WordPressを日常的に利用している方であれば、管理画面の更新通知やリリースノートで、人の名前のような単語を目にしたことがあるかもしれません。
実は、WordPressのメジャーアップデートには毎回ジャズミュージシャンの名前が付けられるという、非常にユニークな伝統があります。
この慣習は、WordPressの共同創設者であるマット・マレンウェッグ (Matt Mullenweg) 氏が熱狂的なジャズファンであることに由来しています。
2004年のバージョン1.0リリースから現在に至るまで、この伝統は一度も途切れることなく守られてきました。
本記事では、WordPressの歴史を彩ってきた歴代ジャズミュージシャンたちの功績と、それぞれのバージョンに込められた開発チームの想いや進化の軌跡を詳しく紐解いていきます。
WordPressとジャズの深い関係
WordPressのバージョン名にジャズミュージシャンの名前が採用されているのは、単なる遊び心だけではありません。
そこには、オープンソースソフトウェアの開発とジャズの即興演奏 (インプロヴィゼーション) における共通の哲学が反映されています。
創設者マット・マレンウェッグの情熱
マット・マレンウェッグ氏は、幼少期からジャズに親しみ、自身もサックスを演奏するミュージシャンとしての一面を持っています。
彼にとってジャズは、個々のプレイヤーが独自の感性を持ち寄りながら、一つの調和した音楽を作り上げる「究極のコラボレーション」の形でした。
この考え方は、世界中の開発者がコードを出し合い、より良いシステムを構築していくオープンソースの精神と見事に合致したのです。
そのため、新しいメジャーバージョンが誕生するたびに、偉大なジャズプレイヤーへの敬意を表してその名が冠されるようになりました。
バージョン命名のルール
WordPressのバージョン番号は、通常 6.4 や 6.5 といった形式で表記されますが、この「小数点第一位」までの数字が変わるアップデートが「メジャーリリース」と呼ばれます。
このメジャーリリースのタイミングで、新しいミュージシャンの名前がコードネームとして発表されます。
一方で、セキュリティ修正などのマイナーアップデート (例: 6.5.1) には固有の名称は付けられません。
つまり、ジャズミュージシャンの名前を冠することは、WordPressにとって大きな進化の節目であることを象徴しているのです。
歴代の主要バージョンと名を冠したミュージシャンたち
これまでにリリースされた数多くのバージョンの中から、特にWordPressの歴史を大きく変えた重要なリリースと、その名の由来となったアーティストを紹介します。
WordPress 1.0 “Davis” (マイルス・デイヴィス)
2004年1月にリリースされた記念すべき最初の公式バージョンには、モダンジャズの帝王マイルス・デイヴィス (Miles Davis)の名が付けられました。
マイルスは、クール・ジャズ、モード・ジャズ、フュージョンなど、時代に合わせて自身のスタイルを劇的に変化させ、常にジャズ界の最先端を走り続けた革新者です。
WordPressの歴史が、マイルスのような「絶え間ない変革」と共に始まったことは、その後のソフトウェアの進化を予言していたかのようです。
WordPress 1.2 “Mingus” (チャールズ・ミンガス)
2004年5月に登場したバージョン1.2は、ベーシストであり作曲家でもあるチャールズ・ミンガス (Charles Mingus)から名付けられました。
このバージョンでは、現在のWordPressの拡張性の基盤となる「プラグイン機構」が初めて導入されました。
ミンガスの複雑かつ重厚な楽曲構成のように、WordPressが単なるブログツールから、多様な機能を拡張できるプラットフォームへと足場を固めた重要な時期でした。
WordPress 3.0 “Thelonious” (セロニアス・モンク)
2010年6月にリリースされたバージョン3.0は、ピアニストのセロニアス・モンク (Thelonious Monk)にちなんでいます。
WordPress 3.0は、ブログとCMS (コンテンツ管理システム) の境界線をなくした革新的なバージョンです。
カスタム投稿タイプやマルチサイト機能が追加され、現在の高度なウェブサイト制作の基礎が完成しました。
モンクの独創的で予測不能なピアノスタイルと同様に、WordPressが既存の枠組みを打ち破った瞬間でした。
WordPress 5.0 “Bebo” (ベボ・バルデス)
2018年12月にリリースされ、編集体験を根本から変えた「ブロックエディタ (Gutenberg)」が導入されたバージョン5.0。
この名前は、キューバのピアニスト、ベボ・バルデス (Bebo Valdés)から取られました。
アフロ・キューバン・ジャズの重鎮であるベボの名を冠したこのアップデートは、WordPressにとって過去最大級のパラダイムシフトとなりました。
クラシックなエディタから直感的なブロックベースの編集へと移行する様子は、伝統的なリズムと新しいエネルギーが融合するベボの音楽性を彷彿とさせます。
WordPress 6.0 “Arturo” (アルトゥーロ・オファリル)
2022年5月にリリースされたバージョン6.0は、ピアニスト兼作曲家のアルトゥーロ・オファリル (Arturo O’Farrill)に由来します。
このバージョンでは、サイト全体をブロックで構築する「フルサイト編集 (FSE)」の機能が大幅に強化されました。
大人数のビッグバンドを率いるアルトゥーロのように、多くのパーツを統合して一つの壮大なサイトを作り上げる操作性が追求されました。
2025年から2026年の最新バージョン動向
2026年現在、WordPressはバージョン7.0の大台を控え、さらなる進化を続けています。
近年のアップデートでは、パフォーマンスの向上とAIの統合が主要なテーマとなっており、これに伴い選出されるミュージシャンも多様化しています。
例えば、近年のバージョンでは以下のようなミュージシャンが名を連ねています。
- WordPress 6.5 “Regina” (レジーナ・カーター):バイオリニスト。繊細かつ力強いフォント管理機能の導入を象徴。
- WordPress 6.6 “Dorsey” (トミー・ドーシー):トロンボーン奏者。スムーズなページ遷移とグリッドレイアウトの最適化。
- WordPress 6.7 “Rollins” (ソニー・ロリンズ):テナーサックス奏者。ダイナミックな画像処理とメディア機能の強化。
2026年時点での最新の開発ロードマップでは、「コラボレーション」のフェーズが最終段階に入っており、複数のユーザーが同時にエディタで編集できるリアルタイム共同編集機能が標準搭載されています。
これに関連し、アンサンブルを得意とする伝説的なジャズグループのリーダーたちが次々と選ばれています。
なぜ「ジャズ」なのか?オープンソースとの共通点
WordPressがここまでジャズにこだわる理由は、両者の構造的な類似性にあります。
ここでは、技術的な視点からジャズとWordPressの共通点を探ります。
即興性とコラボレーション
ジャズのセッションでは、基本的なコード進行やメロディという「枠組み」の中で、各演奏者が自由にインプロヴィゼーション (即興演奏) を行います。
これはWordPressのコアコードという「枠組み」に対し、世界中の開発者がプラグインやテーマという形で独自の表現を加える構造と全く同じです。
誰かが演奏したフレーズに別の奏者が反応するように、ある開発者が公開したコードに対して、別の開発者が改善案を出し、さらに優れた機能が生まれる。
この双方向のコミュニケーションこそが、WordPressが世界シェアNo.1を維持し続けている原動力です。
自由と規律の両立
ジャズは自由な音楽だと思われがちですが、実際にはリズムやスケールといった厳格なルールの上に成り立っています。
ルールがあるからこそ、その中での自由な表現が輝きます。
WordPressも同様に、コーディング規格やセキュリティ基準といった厳格な「規律」があります。
この規律を守ることで、誰でも安心して自由にウェブサイトを構築できる環境が保たれているのです。
歴代バージョン名一覧表
主なメジャーバージョンと、その名前の由来となったミュージシャンを一覧にまとめました。
| バージョン | コードネーム | 主要なミュージシャン | 楽器 | 主な新機能 |
|---|---|---|---|---|
| 1.0 | Davis | マイルス・デイヴィス | トランペット | 初の公式安定版リリース |
| 1.2 | Mingus | チャールズ・ミンガス | ベース | プラグインシステムの導入 |
| 1.5 | Strayhorn | ビリー・ストレイホーン | ピアノ | テーマシステムの導入 |
| 2.0 | Duke | デューク・エリントン | ピアノ | 管理画面の刷新 (現在の原型) |
| 3.0 | Thelonious | セロニアス・モンク | ピアノ | カスタム投稿タイプ、マルチサイト |
| 4.0 | Benny | ベニー・グッドマン | クラリネット | メディアライブラリのグリッド表示 |
| 5.0 | Bebo | ベボ・バルデス | ピアノ | ブロックエディタ (Gutenberg) |
| 5.9 | Josephine | ジョセフィン・ベーカー | 歌手・ダンス | フルサイト編集の導入 |
| 6.0 | Arturo | アルトゥーロ・オファリル | ピアノ | サイトエディタの強化 |
| 6.4 | Shirley | シャーリー・ホーン | ピアノ・歌 | デザインツールの洗練 |
| 7.0 (予) | Parker | チャーリー・パーカー | サックス | AI連携とリアルタイム共同編集 |
まとめ
WordPressのバージョン名に刻まれたジャズミュージシャンたちの名前は、単なるラベルではありません。
それは、「自由、革新、そして協調」というWordPressが最も大切にしている価値観を象徴するものです。
マイルス・デイヴィスから始まったこの伝統は、2026年現在も、新しい技術と自由な表現を繋ぐ架け橋として機能しています。
次にあなたのサイトの管理画面で新しいアップデートが通知されたときは、ぜひその名を冠したミュージシャンの音楽を聴いてみてください。
彼らの奏でるリズムや旋律の中に、目の前のソフトウェアがどのように進化しようとしているのか、そのインスピレーションの源泉が見つかるかもしれません。
WordPressを使うということは、世界中の開発者と共に壮大なジャズセッションに参加しているのと同じなのです。
