開発プロジェクトに取り組むとき、アジャイル開発とウォーターフォール開発のどちらを選ぶかは、成果やチームの働き方に大きな影響を与えます。
本記事では、両者の違いを丁寧に解説しながら、プロジェクトの特徴に応じた開発手法の選び方をわかりやすく整理していきます。
アジャイル開発とウォーターフォール開発とは何か
アジャイル開発の基本概念

アジャイル開発は、ソフトウェアを短いサイクル(スプリント)で少しずつ作り上げていく開発手法です。
従来の「最初にすべてを決めてから作る」という発想ではなく、以下のような考え方を重視します。
- 顧客との対話を繰り返しながら進めること
- 動くソフトウェアを早期に提供し、フィードバックを得ること
- 要件変更を前提にし、柔軟に対応すること
このため、アジャイル開発ではプロジェクト開始時点で仕様が完全に固まっていなくても進めやすく、開発途中での方向転換や機能追加にも対応しやすいという特徴があります。
ウォーターフォール開発の基本概念

ウォーターフォール開発は、工程を上流から下流へ一方向に流して進める、もっとも伝統的な開発手法です。
一般的には次のような工程に分かれます。
- 要件定義
- 設計(外部設計・内部設計)
- 実装
- テスト
- 運用・保守
各工程を段階的に完了させてから次に進むため、全体計画を立てやすく、進捗管理も行いやすいです。
一方で、途中で仕様変更が発生すると前の工程に戻る必要があり、コストやスケジュールへの影響が大きくなりがちです。
アジャイル開発とウォーターフォール開発の構造的な違い
開発プロセスの流れの違い

両者の最大の違いは、プロセスの流れ方にあります。
ウォーターフォール開発では、要件から運用までを1本の大きな流れとして扱います。
ひとつのフェーズを終えてから次に進み、基本的に後戻りは最小限に抑えます。
これは大規模建築のようなイメージで、設計図を固めたうえで一気に作り上げていくスタイルです。
これに対してアジャイル開発では、要件定義・設計・実装・テストを小さな単位で繰り返すことが前提になります。
1〜4週間程度のスプリントごとに、計画、開発、レビュー、振り返りを行い、完成度を少しずつ高めていきます。
仕様確定タイミングの違い
ウォーターフォール開発では、仕様は初期段階でできるだけ確定させることが求められます。
要件定義と設計が完了すると、以降はその仕様に基づいて実装やテストを行うためです。
このため、仕様変更が発生すると、再設計や再テストが必要になり、影響範囲が大きくなります。
一方アジャイル開発は、仕様は変わるものとして扱うことが大きな特徴です。
最初に大まかな方向性や優先順位を決めますが、詳細な仕様はスプリント単位で詰めていきます。
ユーザーの反応やビジネス状況の変化を受けて、バックログを入れ替えたり、機能の優先順位を変えたりしながら進めていきます。
アジャイル開発とウォーターフォール開発の比較一覧

下表は、アジャイル開発とウォーターフォール開発の特徴を簡潔に比較したものです。
| 観点 | アジャイル開発 | ウォーターフォール開発 |
|---|---|---|
| 開発の流れ | 反復的(イテレーティブ)・増分的 | 直線的・段階的 |
| 仕様変更 | 受け入れやすい | 影響大・コスト高 |
| 計画 | 大枠を決め、詳細はスプリントごとに調整 | 初期に詳細まで計画 |
| 成果物提供 | 小さな機能を早期・継続的に提供 | 最後にまとめて提供 |
| ドキュメント | 必要最小限になりがち | 詳細なドキュメントを重視 |
| 顧客との関与 | 頻繁なレビュー・フィードバック | 要所でのレビューが中心 |
| リスク管理 | 早い段階で実物を確認しやすい | 後半に不具合が顕在化しやすい |
| 向いている案件 | 変化の多いサービス、新規プロダクト | 要件が安定した基幹系・受託案件 |
このように、両者は前提としているプロジェクトの性質が異なるため、「どちらが優れているか」ではなく「どの状況に向いているか」で判断することが重要です。
アジャイル開発のメリット・デメリット
アジャイル開発のメリット
アジャイル開発には、次のようなメリットがあります。
1つ目は、価値提供のスピードの速さです。
最小限の機能(MVP)を早期にリリースし、ユーザーからの反応を得ることで、不要な機能を作り込むリスクを減らせます。
2つ目は、変更への強さです。
ビジネス環境の変化やユーザーの新しいニーズを、バックログの組み替えやスプリント計画の見直しによって、比較的低コストで取り込むことができます。
3つ目は、チーム内外のコミュニケーションの活性化です。
デイリースクラムやスプリントレビュー、レトロスペクティブといったイベントを通して、情報共有や改善活動が継続的に行われます。
アジャイル開発のデメリット
一方、アジャイル開発には注意すべき点もあります。
まず、全体像や長期スケジュールが見えにくくなる可能性があります。
特に経験が浅いチームでは、短期目標に集中するあまり、いつどの程度の機能が完成するのかをステークホルダーに説明しにくい場合があります。
また、顧客側の関与が不足していると、アジャイルの良さが発揮されにくいという問題もあります。
スプリントごとのレビューに参加してもらえない、フィードバックが遅い、意思決定者がプロジェクトにコミットしていない、といった状況では、結局「なんとなく小さく分けて作っているウォーターフォール」になってしまいます。
さらに、ドキュメントの不足もよく指摘される課題です。
「動くソフトウェアを最優先する」という価値観が誤解されると、必要な設計情報や引き継ぎ資料が残らず、保守やメンテナンスが難しくなる恐れがあります。
ウォーターフォール開発のメリット・デメリット
ウォーターフォール開発のメリット
ウォーターフォール開発の最大の強みは、予測可能性と管理のしやすさです。
初期段階で要件とスケジュール、コストを詳細に見積もるため、契約ベースの受託開発や、厳しい予算管理が求められる案件に向いています。
また、ドキュメントが整いやすいことも重要なポイントです。
要件定義書、設計書、テスト仕様書などがきちんと整備されるため、大規模システムや長期運用が前提の基幹システムでは、保守運用の観点からも有利に働きます。
さらに、組織的な承認プロセスとの相性も良好です。
各工程の完了タイミングでレビューや承認を行う文化がある組織では、ウォーターフォール型の方が社内説明や稟議が通しやすいケースが少なくありません。
ウォーターフォール開発のデメリット
ウォーターフォール開発の最大の弱点は、仕様変更への弱さです。
要件定義や設計が完了した後に大きな変更が入ると、前工程のやり直しが必要になり、コスト・期間ともに大きな影響を受けます。
また、ユーザーが実物を触れるのがプロジェクト後半になることもリスクです。
画面イメージや設計書だけでは、ユーザーが本当に必要としているものを十分に表現できない場合があります。
その結果、「完成してみたら想像と違った」というギャップが、テストフェーズや受け入れフェーズで発覚することがあります。
さらに、初期の要件定義の質に成功が大きく依存するという構造的な課題があります。
最初の段階で見落としや誤解があると、それが後ろの工程まで連鎖してしまい、発見が遅れるほど手戻りコストが増大します。
どちらを選ぶべきかの判断基準
プロジェクトの性質から考える選び方

開発手法の選択は、プロジェクトの性質と制約条件から考えることが大切です。
代表的な判断軸として、次のようなものがあります。
1つ目は、要件の変動性です。
新規サービス開発や、ユーザーの反応を見ながら改善していくプロダクトなど、要件が変わりやすいプロジェクトではアジャイル開発との相性が良くなります。
一方、法令対応や基幹系システムの更新など、要件が比較的明確で変わりにくい案件では、ウォーターフォール開発でも十分に対応できます。
2つ目は、品質・安全性・コンプライアンス要求です。
医療、金融、公共インフラなど、高い信頼性と厳格なドキュメントが必要な領域では、ウォーターフォール型、あるいはウォーターフォール寄りのプロセスが求められることが多いです。
3つ目は、契約形態と予算です。
固定価格契約で、範囲と納期が厳密に決まっている場合は、どうしてもウォーターフォール的な進め方になりがちです。
逆に、自社サービスの内製開発など、スコープやリリース計画を柔軟に調整できる環境では、アジャイルのメリットを活かしやすくなります。
チームや組織の成熟度から考える選び方
手法の特徴だけでなく、チームや組織の成熟度も重要な要因です。
アジャイル開発を成功させるには、エンジニアだけでなく、プロダクトオーナーやビジネス側のメンバーも含めて、継続的なコミュニケーションと迅速な意思決定が求められます。
自己組織化されたチーム運営や、透明性の高い情報共有の文化があるほど、アジャイルの効果は高まります。
一方で、役割分担がはっきりしており、指示系統もトップダウン型の組織では、まずはウォーターフォールをベースに一部アジャイル的な要素を取り入れる、といった段階的なアプローチの方がうまくいくこともあります。
「手法だけをアジャイルにしても、組織文化が変わらなければ機能しない」という点は、特に意識しておきたいポイントです。
両者を組み合わせたハイブリッドアプローチ
上流ウォーターフォール+下流アジャイルという考え方

現実のプロジェクトでは、アジャイルかウォーターフォールかの二択ではなく、両者を組み合わせたハイブリッド型が選ばれるケースが増えています。
よくあるパターンとしては、要件定義や基本設計のフェーズはウォーターフォール的に進め、プロジェクトの全体像や守るべき制約を合意しておきます。
そのうえで、画面単位や機能単位の詳細設計〜実装〜テストをアジャイルなスプリントで反復しながら進める方法です。
このアプローチでは、ウォーターフォールの計画性と説明しやすさと、アジャイルの柔軟性と早期フィードバックの両方をバランスよく取り入れられる可能性があります。
小さな単位からの導入が有効
いきなり組織全体をアジャイルに切り替えるのは、現実的ではない場合が多いです。
そのため、まずは一つのプロジェクトやサブチームで試験的に導入することがよく行われます。
具体的には、ウォーターフォール型のプロジェクトの中で、一部の機能開発だけをスプリントに分けて進め、レビューやレトロスペクティブの文化を育てていくといったやり方が考えられます。
このようにして成功体験を積み重ねることで、徐々にアジャイル的なプラクティスを広げていくことが現実的です。
まとめ
アジャイル開発とウォーターフォール開発は、どちらが優れているかを争うものではなく、前提とする状況や目的が異なる2つの考え方です。
要件の変動性、品質や安全性への要求、契約や予算の制約、そして組織文化やチームの成熟度といった要素を踏まえて、自分たちのプロジェクトに最も合ったスタイルを選ぶことが重要です。
両者の特徴を理解したうえで、必要に応じてハイブリッドなアプローチも取り入れながら、プロジェクトの成功とチームの成長につながる開発プロセスを設計していきましょう。
