Jupyter Notebook/JupyterLabは、Pythonのコード、説明文、図表を1つのノートにまとめ、実行結果をすぐ確認しながら学べる対話型環境です。
この記事では、初心者の方でも迷わずに始められるインストール手順から基本の使い方、見た目の調整、よくあるトラブルの対処までを順に解説します。
Jupyter Notebook/JupyterLabとは?
Jupyterは「コードを少しずつ試し、結果を確認し、説明を書き足しながら分析を進められるノート型の開発環境」です。
Pythonを中心に、データの読み込み、加工、可視化、説明やメモまで1つのファイルで完結できるのが大きな特徴です。
対話的に試せるノート環境のメリット
Jupyterではセルと呼ばれる小さなブロック単位でコードを実行します。
計算が終わるたびに結果がノート内に残るため、分析の過程が自然に記録され、後から再現や共有がしやすくなります。
説明文をMarkdownで併記できるので、手順や意図をその場で書き残しやすい点も実務での強みです。
さらに、グラフや表がノート上にリッチに表示されるため、別アプリを往復する手間がありません。
「小さく試す→結果を見る→また試す」サイクルが高速に回ることが、学習やデータ分析の上達を加速させます。
NotebookとJupyterLabの違い
JupyterにはシンプルなNotebookと、タブやファイルブラウザを備えたJupyterLabがあります。
初学者はどちらでも使えますが、今から始めるなら機能と拡張性に優れるJupyterLabがおすすめです。
表は代表的な違いの概要です。
項目 | Jupyter Notebook | JupyterLab |
---|---|---|
画面構成 | 単一ノート中心 | タブレイアウトで複数ノートや端末を並行表示 |
ファイル操作 | 最低限のブラウズ | 左ペインでフォルダ/ファイル操作が快適 |
拡張性 | 限定的 | 拡張機能やテーマに対応 |
初心者の分かりやすさ | とても簡潔 | 多機能だが慣れると効率的 |
これからの推奨 | 保守利用中心 | 新規利用に推奨 |
必要なもの
- Python 3.10以上を推奨します。Anacondaを使う場合は同梱のPythonで問題ありません。
- Windows/Mac/Linuxいずれも動作します。ブラウザはChromeやEdge、Firefoxなどを推奨します。
- ディスク空き容量はAnacondaなら数GB以上、pip+venvなら数百MB程度です。
- ネットワーク接続はインストールやライブラリ追加時に必要です。
- Windowsのユーザー名や作業フォルダに全角文字やスペースがあると、一部ツールで不具合が起きることがあります。可能なら半角英数字のパスを使います。
インストールとセットアップ手順
環境構築は大まかに2通りあります。
最短で始めるならAnaconda、一番軽量にしたいならpip+venvという選び方が目安です。
軽量: pip+venvでインストール
必要なものだけを入れたい場合や、既存のPythonを使いたい場合はこちらが向いています。
# 作業用フォルダを作って移動します
mkdir my-notebooks
cd my-notebooks
# 仮想環境を作成します(.venvという隠しフォルダを使う例)
python -m venv .venv
# 仮想環境を有効化します
# Windows:
.\.venv\Scripts\activate
# macOS/Linux:
# source .venv/bin/activate
# JupyterLabとよく使うライブラリを入れます
pip install --upgrade pip
pip install jupyterlab notebook pandas numpy matplotlib seaborn
# 必要ならカーネルを登録しておくと、Jupyterから選択できます
python -m ipykernel install --user --name my-notebooks
Successfully installed jupyterlab-4.x notebook-7.x pandas-2.x numpy-1.x matplotlib-3.x seaborn-0.x
Installed kernelspec my-notebooks in ~/.local/share/jupyter/kernels/my-notebooks
かんたん: Anacondaで一括インストール
AnacondaはPython本体に加え、Jupyter、pandas、NumPy、Matplotlibなどの主要パッケージが最初からまとまっています。
容量は大きめですが設定が少なく、初心者でもスムーズに導入できます。
手順の流れ
- 公式サイトからインストーラをダウンロードします。
- 画面の指示に従ってインストールします。特に迷う箇所はありません。
- Anaconda Prompt(またはTerminal)を開き、仮想環境を作成してJupyterLabを起動します。
# 仮想環境を作成します。名前は例として "dsenv" としています
conda create -n dsenv python=3.11 -y
# 環境を有効化します
conda activate dsenv
# JupyterLabを起動します
jupyter lab
[I 2025-01-01 10:00:00.000 ServerApp] Jupyter Server 2.x is running at:
[I 2025-01-01 10:00:00.000 ServerApp] http://localhost:8888/lab?token=xxxxxxxxxxxxxxxx
[I 2025-01-01 10:00:00.000 ServerApp] Use Control-C to stop this server and shut down all kernels
ブラウザが自動で開かない場合は、表示されたURLをコピーして開きます。
初回起動方法
起動はコマンドから行うのが確実です。
jupyter lab
はJupyterLab、jupyter notebook
はクラシックNotebookを起動します。
# JupyterLabを起動
jupyter lab
# もしポートが埋まっている時は別ポートを指定できます
jupyter lab --port 8889
http://localhost:8888/lab?token=...
起動に成功すると自動的に既定のブラウザでJupyterLabまたはJupyter Notebookが起動します。

作業フォルダの作り方と保存場所
ノートの保存先は「現在のカレントディレクトリ」です。
分析ごとにフォルダを作っておくと整理がしやすくなります。
起動前に作業フォルダへ移動してからJupyterを起動するのが最も簡単です。
# 例: データ分析用のフォルダを作成して移動し、そこからJupyterを起動
mkdir ~/projects/analysis-101
cd ~/projects/analysis-101
jupyter lab
特定フォルダを常に起点にしたい場合は、起動オプションを使います。
# 任意のフォルダを起点に起動する
jupyter lab --notebook-dir "C:\work\notebooks" # Windowsの例
# もしくは
jupyter lab --notebook-dir ~/projects/notebooks # macOS/Linuxの例
使い方の基本
Jupyterではノート(.ipynb)の中にセルを追加し、上から順に実行していきます。
セルごとに実行結果が直下に表示されるため、試行錯誤がとてもやりやすいのが特長です。
新規ノートを作成
JupyterLabではランチャー(Launcher)からPythonアイコンを選ぶと新しいノートが開きます。

クラシックNotebookでは右上のNewからPythonを選びます。
ノートのタイトル部分をクリックして名前を変更できます。
セルの種類(Code/Markdown)と切り替え
セルには「Code」と「Markdown」があります。
CodeはPythonコードを実行するセル、Markdownは説明文や見出し、リストなどを書けるセルです。
ツールバーのプルダウンか、Y
でCode、M
でMarkdownに切り替えられます。
Markdownの簡単な例
# このノートの目的
- データを読み込み、可視化まで行います
- 気づきをメモします
数式も書けます(例): $y = ax + b$

テキストエリアの左をクリックしてブロックを選択して、M
またはY
、もしくは上記のスクリーンショット右上に見えているMarkdown
のとこをクリックしてCode
・Markdown
の切り替えを行えます。
セルの実行(Shift+Enter)と停止
Codeセルを実行するにはShift+Enter
(スペースは不要です。入力時はShift+Enter
だけ押してください)が基本です。
実行中はセル左の表示がアスタリスクになり、完了すると番号が入ります。
無限ループなどで止まらない時はツールバーの停止ボタンで割り込みができます。
# はじめての実行: 文字を表示します
message = "Hello, Jupyter!"
print(message)
Hello, Jupyter!

カーネルの再起動/リセット
長時間作業でメモリが膨らんだり状態が壊れた時は、メニューの「Kernel → Restart」から再起動します。

変数やインポート状態は消えるため、上から順にセルを実行し直します。
出力だけ消したい時は「Clear All Outputs」を使います。
ノートの保存とチェックポイント
ノートは自動保存されますが、Ctrl+S
(macOSはCmd+S
)で明示的に保存できます。
Jupyterはチェックポイント機能を持ち、任意の時点に戻すことができます。
JupyterLabでは「File → Save Notebook」操作時に自動でチェックポイントが作られます。
JupyterLabの画面構成
JupyterLabは画面左にファイルブラウザ、中央にエディタやノートのタブ、右にプロパティやアウトラインなどを表示できます。
ファイルのドラッグ&ドロップ、エディタの分割表示、ターミナルやテキストファイルの同時編集など、複数作業を並行しやすい設計です。
よく使うパネル
- File Browser: フォルダ/ファイルの閲覧と操作
- Launcher: 新規ノートやターミナル、コンソールの作成
- Tabエリア: ノートやエディタをタブで並行表示
表や画像の表示
表形式のデータはpandasのDataFrameとして表示すると見やすくなります。
画像はMatplotlibで配列を可視化したり、PIL画像を直接表示できます。
# 表の表示: DataFrameを作って先頭を確認します
import pandas as pd
df = pd.DataFrame({
"名前": ["りんご", "ばなな", "みかん", "ぶどう", "いちご"],
"価格": [120, 100, 130, 450, 300],
"在庫": [50, 80, 40, 10, 25],
})
df.head()

# 画像の表示: 数値配列を疑似画像として可視化します
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# グラデーション画像を作る
img = np.linspace(0, 1, 256)
img = np.outer(img, img) # 256x256 の2次元化
plt.imshow(img, cmap="viridis")
plt.title("Gradient Image")
plt.axis("off") # 軸を消す
plt.show()

グラフの表示
MatplotlibやSeabornを使うと、折れ線、棒、散布図などが簡単に描けます。
ノートブックではコマンドの最後に描画オブジェクトを書くかplt.show()
を呼ぶと、セル直下にグラフが出ます。
# 基本的なグラフの例: 折れ線と散布図
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import seaborn as sns
# 見やすいスタイルにする
sns.set_theme(style="whitegrid")
x = np.linspace(0, 2*np.pi, 50)
y = np.sin(x)
plt.figure(figsize=(6, 4))
plt.plot(x, y, label="sin(x)")
plt.scatter(x, y, color="tomato", s=25, alpha=0.7, label="points")
plt.xlabel("x")
plt.ylabel("sin x")
plt.legend()
plt.title("Sine Curve")
plt.show()

便利ワザとトラブル対処
実務での使い勝手やトラブルの少なさは、ちょっとした設定や知識で大きく改善します。
ショートカットと見た目の調整、文字化け対策、カーネルの健全性チェックを押さえておくと安心です。
よく使うキーボードショートカット
コマンドモードはEsc
で、エディットモードはEnter
で切り替えます。
以下は特によく使います。
操作 | キー |
---|---|
セル実行して次へ | Shift+Enter |
セル実行のみ | Ctrl+Enter |
上にセル追加 | A |
下にセル追加 | B |
セル削除 | D, D(素早くDを2回) |
セル種別をCodeへ | Y |
セル種別をMarkdownへ | M |
セルの移動(上/下) | Ctrl+↑ / Ctrl+↓(macOSはCmd) |
直前のセル削除を取り消し | Z |
見た目の調整
JupyterLabはテーマやフォント、行番号などを柔軟に変更できます。
見やすさは作業効率に直結します。
目的 | 操作 |
---|---|
ダーク/ライト切替 | Settings → JupyterLab Theme |
行番号の表示 | View → Show Line Numbers |
拡大/縮小 | View → Zoom In/Out または Ctrl+マウスホイール |
高度な設定 | Settings → Advanced Settings Editor |
ダークテーマは長時間の作業で目の負担を軽減しやすいため、好みに合わせて切り替えましょう。
日本語表示や文字化けの対策
ノート自体はUTF-8で保存されますが、グラフのラベルに日本語が表示されないことがあります。
フォント設定を1度入れておくと安心です。
# Matplotlibの日本語フォント設定例
import matplotlib.pyplot as plt
import matplotlib
# OSに応じてよくあるフォント名を指定します
# フォントが入っていない場合は、インストールまたは別フォント名に置換してください
matplotlib.rcParams["font.family"] = ["Yu Gothic", "Hiragino Sans", "Noto Sans CJK JP", "MS Gothic"]
matplotlib.rcParams["axes.unicode_minus"] = False # マイナス記号の文字化け対策
plt.title("日本語タイトルも表示できます")
plt.plot([0, 1, 2], [0, 1, 0], label="サンプル")
plt.legend()
plt.show()
[日本語タイトルと凡例が文字化けせずに表示されます]
WindowsでCSVを読み込む際に文字化けする時は、pandasのread_csvでencoding=”cp932″や”utf-8-sig”を指定してみてください。
# 文字化け時の読み込み例
# df = pd.read_csv("data.csv", encoding="cp932") # Excel由来のCSVで有効なことが多い
# df = pd.read_csv("data.csv", encoding="utf-8-sig") # UTF-8 with BOM
カーネルが動かない時のチェックポイント
- カーネル選択: 右上もしくはカーネルメニューで、意図したPython環境が選ばれているか確認します。
- 必要パッケージの所在: 使っている環境にライブラリが入っているかを
pip list
やconda list
で確認します。 - カーネルの登録: 仮想環境を作った後は
python -m ipykernel install --user --name 環境名
で登録します。 - リソース不足: 大きなデータで動かなくなったら、カーネルを再起動し、必要箇所だけ実行し直します。
- ログ確認:
jupyter lab --debug
で詳細ログを見て、エラー箇所を特定します。
# カーネルの一覧を確認
jupyter kernelspec list
# 使いたい環境をカーネルとして登録
python -m ipykernel install --user --name dsenv
Available kernels:
python3 .../share/jupyter/kernels/python3
dsenv .../share/jupyter/kernels/dsenv
よく使うコマンド
よく使う起動や管理コマンドをまとめます。
コマンドは作業フォルダで実行するのが基本です。
目的 | コマンド例 |
---|---|
JupyterLabを起動 | jupyter lab |
クラシックNotebookを起動 | jupyter notebook |
起動URLの確認 | jupyter server list |
サーバ停止 | Ctrl+C で停止、必要なら y で確認 |
指定フォルダで起動 | jupyter lab –notebook-dir パス |
HTMLへ変換 | jupyter nbconvert –to html ノート.ipynb |
PDFへ変換 | jupyter nbconvert –to pdf ノート.ipynb(TeXが必要) |
まとめ
Jupyter Notebook/JupyterLabは、コード、説明、表やグラフを1つのノートに統合し、試行錯誤のスピードを最大化するための実践的な環境です。
初めてならAnacondaで素早く始め、慣れてきたらpip+venvで軽量運用へ移行するのも良い選択です。
セルの実行やカーネル再起動、ショートカット、見た目の調整、日本語フォント設定といった基本を押さえれば、学習も仕事も快適に進みます。
最初は小さなノートから始め、少しずつ機能を覚えながら、ご自身の分析スタイルに合ったワークフローを作っていってください。