.NETは、C#やF#、Visual Basic .NET(VB.NET)など、複数のプログラミング言語で開発ができる強力なプラットフォームです。
異なる言語で書かれたプログラムが、なぜ互いに連携し、同じライブラリを共有できるのか不思議に思ったことはないでしょうか。
その基盤を支えているのが、「共通型システム(CTS: Common Type System)」と「共通言語仕様(CLS: Common Language Specification)」です。
この記事では、これら2つの仕組みがどのように動作し、多言語共存を実現しているのかを詳しく解説します。
.NETにおける多言語相互運用の全体像
.NETの最大の強みの一つは、「言語の壁を越えた相互運用性」です。
例えば、C#で作成したクラスライブラリをVB.NETから呼び出すといったことが当たり前に行えます。
これを可能にするためには、すべての言語で「データの扱い方」と「守るべきルール」が統一されていなければなりません。

この図が示す通り、ソースコードは一度共通中間言語(CIL)という共通の形式に変換されます。
この変換プロセスにおいて、データ型の定義を厳密に定めているのがCTSであり、異なる言語間での互換性を保証するルールセットがCLSです。
これらがあるおかげで、開発者は特定の言語に縛られることなく、最適なツールを選択できるのです。
CTS(共通型システム)の仕組みと役割
CTSとは何か
共通型システム(CTS: Common Type System)は、.NETプラットフォーム上で使用されるすべてのデータ型を定義する仕様です。
CTSは、「型をどのように宣言し、どのように使用し、どのように管理するか」を厳密に規定しています。
.NETにおいて、整数を表すintや文字列を表すstringといった型は、実は背後でこのCTSに基づいた共通の型に紐付いています。
これにより、C#のintとVB.NETのIntegerは、内部的には全く同じSystem.Int32として扱われることになります。
CTSの型階層

CTSでは、すべての型が最終的にSystem.Objectという共通の基本クラスから派生しています。
この単一の継承ツリーにより、どのようなデータであっても統一的な操作が可能になります。
値型(Value Types)
値型は、メモリ上のスタック領域に直接データを保持する型です。
これには数値型、文字型、論理型、そしてユーザー定義の構造体が含まれます。
値型は軽量であり、コピーされる際にデータそのものが複製されます。
参照型(Reference Types)
参照型は、ヒープ領域にデータを保持し、その場所を指し示す「参照」をスタックに持つ型です。
クラス、インタフェース、配列などがこれに該当します。
参照型の変数を別の変数に代入すると、データの場所を示す情報だけがコピーされるため、複数の変数が同じ実体を参照することになります。
CTSが提供する主な機能
CTSは単なる型のカタログではありません。
以下のような重要な機能を提供しています。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 型の安全性 | 実行時に型が適切であることを保証し、不正なメモリアクセスを防ぐ。 |
| カプセル化 | 公開範囲(public, privateなど)を制御する仕組みを提供する。 |
| 継承の定義 | クラスやインタフェースの継承関係をどのように構築するかを規定する。 |
| メモリ管理 | ガベージコレクション(GC)がオブジェクトを正しく追跡できるように支援する。 |
このように、CTSは.NETの型における「憲法」のような役割を果たしており、あらゆる言語がこの仕様に従うことで、メモリ上でのデータの振る舞いが一致するようになっています。
CLS(共通言語仕様)の仕組みと役割
CLSとは何か
共通言語仕様(CLS: Common Language Specification)は、CTSの膨大なルールの中から、「異なる言語間での相互運用に最低限必要な共通ルール」を抜き出したサブセットです。
.NETに対応した言語には、それぞれ独自の強力な機能があります。
しかし、ある言語に特有すぎる機能を使ってライブラリを作成してしまうと、他の言語からそのライブラリを呼び出せなくなるという問題が発生します。
CLSは、こうした不都合を避けるための「言語間の約束事」を定義しています。

なぜCLSが必要なのか
例えば、C#では大文字と小文字を区別しますが、VB.NETでは区別しません。
もしC#で「MyMethod」と「mymethod」という、名前がケース(大小)違いだけの2つの公開メソッドを作った場合、VB.NETからはどちらを呼び出せばいいか判断できなくなり、エラーが発生します。
このような「ある言語ではOKだが、他の言語ではNG」という状況を防ぐのがCLSの目的です。
CLSに準拠したプログラムを書くことで、そのコードはすべての.NET対応言語から確実に利用できるようになります。
CLSの主なルール
CLSには多くの細かいルールがありますが、代表的なものをいくつか紹介します。
- 命名規則: 大文字小文字の違いだけで識別される名前を公開してはいけない。
- 符号なし整数: すべての言語が符号なし整数(uintなど)をサポートしているわけではないため、公開インターフェースでは符号あり整数を使用することが推奨される。
- グローバル関数: クラスに属さないグローバルな関数や変数は許可されない。
- 例外処理:
System.Exceptionから派生した型のみをスローしなければならない。
CTS・CLSの実践的な理解
ここからは、実際にプログラムを書きながら、これらの仕組みがどのように関わっているのかを見ていきましょう。
CLS準拠のチェック
.NETでは、アセンブリ(実行ファイルやDLL)に対してCLSCompliant属性を付与することで、コンパイラに「このコードがCLSのルールに従っているかチェックしてください」と依頼することができます。
using System;
// アセンブリ全体に対してCLS準拠のチェックを有効にする
[assembly: CLSCompliant(true)]
namespace CtsClsDemo
{
public class Calculator
{
// 1. CLS準拠のメソッド
public int Add(int a, int b)
{
return a + b;
}
// 2. CLS非準拠のメソッド(符号なし整数を使用)
// コンパイル時に警告(またはエラー)が出る可能性があります
public uint AddUnsigned(uint a, uint b)
{
return a + b;
}
// 3. CLS非準拠の例(大文字小文字の違いのみ)
// public void Process() { }
// public void process() { } // VB.NETなどの言語で衝突する
}
}
上記のコードをコンパイルすると、uintを使用している箇所などで「CLSに準拠していません」といった警告が表示されることがあります(プロジェクトの設定によります)。
これにより、他の言語から利用されることを想定したライブラリの品質を保つことができます。
言語をまたいだ型の共有
次に、C#で定義したCTSに基づく型が、どのように他の言語に見えるかを確認してみましょう。
// C#のコード
namespace MyLibrary
{
public class Person
{
public string Name { get; set; } // CTSのSystem.String
public int Age { get; set; } // CTSのSystem.Int32
}
}
このクラスをコンパイルしてDLLにし、VB.NETから参照すると、VB.NETの構文を使って自然に操作できます。
' VB.NETのコード
Imports MyLibrary
Module Program
Sub Main()
' C#で定義したクラスをインスタンス化
Dim p As New Person()
p.Name = "田中太郎" ' Stringとして扱える
p.Age = 30 ' Integerとして扱える
Console.WriteLine($"{p.Name}さんは{p.Age}歳です。")
End Sub
End Module
田中太郎さんは30歳です。
この相互運用がスムーズに行えるのは、「C#のintもVB.NETのIntegerも、内部的には共通のCTS型であるSystem.Int32である」という共通認識があるからです。
CTS・CLS・CLRの関係性
最後に、これまでの要素が「実行環境(CLR)」の中でどのように組み合わさっているのかを整理します。

CLR(共通言語ランタイム)の役割
共通言語ランタイム(CLR: Common Language Runtime)は、.NETアプリケーションを実行するためのエンジンです。
CLRは、CTSに基づいて定義された型をメモリ上に展開し、CLSのルールに従って作成されたコードを実行します。
- コンパイル時: ソースコードはCTS/CLSの規則に従って
中間言語(CIL)に変換されます。 - 実行時: CLRがCILを読み込み、実行環境のCPUに合わせた「マシン語」にJIT(Just-In-Time)コンパイルします。このとき、CTSの情報を元に厳密な型チェックが行われます。
この三位一体の仕組みにより、.NETは高いパフォーマンスと、安全な実行環境、そして卓越した言語の自由度を同時に実現しているのです。
まとめ
.NETにおけるCTS(共通型システム)とCLS(共通言語仕様)は、単なる仕様の枠組みを超えて、多言語共存という大きな理想を支える基礎技術です。
CTSが「すべての言語で共通のデータ型」を定義し、CLSが「異なる言語同士が会話するための共通ルール」を定めることで、私たちは言語の差異を気にすることなく、膨大なライブラリ資産を活用できます。
これから.NETで開発を行う際には、単にコードを書くだけでなく、その背後でこれらのシステムがデータを調整し、安全性と互換性を守ってくれていることを意識してみてください。
その深い理解が、より堅牢でスケーラブルなシステム設計へと繋がるはずです。
