C++は、ゲーム開発や高速な処理が求められるシステムで広く使われている言語ですが、名前が似ているC言語との違いや特徴が分かりにくく、最初の一歩でつまずきやすい言語でもあります。
本記事では、C++とは何か、C言語との違い、どのような場面で使われるのかを、プログラミング初心者の方にも分かるように、イメージ図やサンプルコードを交えながら丁寧に解説していきます。
C++とは?C言語との違いと基本概要
C++とはどんなプログラミング言語か

C++は、「効率のよい低レベル制御」と「分かりやすい高レベルな構造」の両方を兼ね備えたプログラミング言語です。
もともとC言語にオブジェクト指向などの新しい考え方を追加した言語として誕生し、今ではゲームエンジン、ブラウザ、デスクトップアプリ、金融システムなど、コンピュータのコアを支える多くの分野で使われています。
特徴を一文でまとめると、「速くて細かく制御できるのに、大規模開発にも耐えられる構造化がしやすい言語」です。
C++とC言語の歴史的な関係

C++は、1980年代にビャーネ・ストロヴストルップ(デンマーク出身のコンピュータ科学者)によって開発されました。
最初はC with Classesと呼ばれ、C言語に「クラス」や「オブジェクト指向」の機能を追加した拡張版としてスタートしました。
その後、機能が整理・拡張され、1983年頃からC++という名前が使われるようになります。
名前の++は、C言語のインクリメント演算子をもじったもので、「Cを一段階パワーアップさせた言語」という意味が込められています。
現在のC++は、以下のように規格化が進み、モダンC++と呼ばれる書き方が主流になっています。
| 年 | 規格名 | 主な特徴のイメージ |
|---|---|---|
| 1998 | C++98 | 最初の国際規格。古典的C++。 |
| 2011 | C++11 | モダンC++の始まり。自動型推論、ラムダ式など。 |
| 2014 | C++14 | C++11の改善。細かい使い勝手の向上。 |
| 2017 | C++17 | 並列処理などの拡充。 |
| 2020 | C++20 | コンセプト、範囲forの拡張など。 |
C++はC言語との互換性を重視して設計されており、多くのC言語のコードは、そのまま、または少しの修正でC++としてもコンパイルできます。
C++初心者が知っておきたい用途と活躍分野

C++は、特に以下のような分野でよく使われています。
文章でイメージしやすいように、代表的な例とともに見てみます。
- ゲームエンジンや家庭用ゲーム機のソフト
Unreal Engine、Unity(の一部ネイティブ部分)、多くの家庭用ゲームタイトルのコア部分がC++で書かれています。 - 組み込み機器・IoTデバイス
自動車の制御ECU、家電の制御ソフト、産業用ロボットなど、ハードウェアに近いレイヤーでC++が使われることが多いです。 - デスクトップアプリケーション
WindowsやmacOSで動く高機能なソフトウェア(グラフィックツール、オフィスソフトの一部など)がC++で実装されています。 - 高性能な数値計算・金融システム
シミュレーション、物理計算、機械学習の一部ライブラリ、証券会社の取引エンジンなど、「1ミリ秒でも速くしたい」領域でC++はよく選ばれます。
このように、C++は「パフォーマンス」と「規模の大きな開発」が両立したい場面で特に活躍します。
C++の特徴
C++のオブジェクト指向

C++の大きな特徴の1つがオブジェクト指向プログラミングです。
オブジェクト指向では、現実世界の「もの」(オブジェクト)を、その「性質(データ)」と「ふるまい(機能)」のセットとして表現します。
ここでは、簡単なクラス定義の例を見て、おおまかな雰囲気をつかんでみましょう。
#include <iostream>
#include <string>
// 「Player」というクラスを定義
class Player {
public:
// データ(状態)を表すメンバ変数
std::string name;
int hp;
// コンストラクタ: オブジェクトを生成するときに呼ばれる特別な関数
Player(const std::string& n, int initialHp)
: name(n), hp(initialHp) {} // メンバ初期化リスト
// 振る舞い(メソッド、メンバ関数)
void attack() {
std::cout << name << "は攻撃した!\n";
}
void damage(int amount) {
hp -= amount;
std::cout << name << "は" << amount << "ダメージを受けた。残りHP: " << hp << "\n";
}
};
int main() {
// Playerという型のオブジェクトを生成
Player p("勇者", 100);
// メンバ関数を呼び出す
p.attack();
p.damage(30);
return 0;
}
勇者は攻撃した!
勇者は30ダメージを受けた。残りHP: 70
この例から分かるように、C++では「データ型」を自分で設計し、その中にデータと関数をまとめて持たせることができます。
これにより、大規模なプログラムでも構造を整理しやすくなります。
C++の高速性

C++はコンパイル型言語であり、人間が書いたソースコードをコンパイラが機械語(ネイティブコード)に翻訳してから実行します。
この仕組みにより、インタプリタ型言語に比べてオーバーヘッドが少なく、非常に高速な実行が可能です。
また、C++は
- メモリ管理を手動で最適化できる
- 不要な抽象化を省けば、機械語に近い効率のコードが生成できる
といった特徴を持っています。
そのため、ゲームのレンダリングエンジンや物理シミュレーション、リアルタイム通信など、「遅いと困る」処理で重宝されています。
簡単な例として、ループによる繰り返し処理のイメージをC++で見てみましょう。
#include <iostream>
#include <chrono>
int main() {
const long long N = 100000000; // 1億回
auto start = std::chrono::high_resolution_clock::now();
long long sum = 0;
for (long long i = 0; i < N; ++i) {
sum += i;
}
auto end = std::chrono::high_resolution_clock::now();
auto diff = std::chrono::duration<double>(end - start).count();
std::cout << "sum = " << sum << "\n";
std::cout << "処理時間: " << diff << " 秒\n";
return 0;
}
sum = 4999999950000000
処理時間: 0.3 秒
(実際の時間はPC性能によって変わりますが、C++ではこの規模のループでもかなり短時間で処理できます。)
C++の低レベル制御

C++は、C言語から受け継いだ低レベル制御の機能を持っています。
具体的には、
- メモリの確保と解放(
new/delete、malloc/free) - ポインタを使ったアドレスの扱い
- ビット単位の演算
などが挙げられます。
初心者のうちは少し難しく感じるところですが、コンピュータが内部でどう動いているかを理解する助けになり、また、組み込み開発などでは必須のスキルになります。
#include <iostream>
int main() {
int value = 42;
// int型へのポインタを宣言し、valueのアドレスを代入
int* ptr = &value;
std::cout << "valueの値: " << value << "\n";
std::cout << "valueのアドレス: " << &value << "\n";
std::cout << "ptrが指すアドレス: " << ptr << "\n";
std::cout << "ptr経由で参照した値: " << *ptr << "\n";
return 0;
}
valueの値: 42
valueのアドレス: 0x7ffeefbff4ac
ptrが指すアドレス: 0x7ffeefbff4ac
ptr経由で参照した値: 42
アドレスの具体的な値(16進数)は環境によって異なりますが、変数がどこにあるか(アドレス)を扱えることが分かります。
このような能力は、メモリ効率がシビアな組み込み機器や、特殊な最適化が必要な場面で重要になります。
C++標準ライブラリ(STL)の特徴と利点

C++にはSTL(Standard Template Library)と呼ばれる強力な標準ライブラリがあります。
これは、よく使うデータ構造やアルゴリズムを、テンプレートという仕組みで汎用的に使えるようにした部品集です。
代表的な要素としては、次のようなものがあります。
| 分類 | 代表的なもの | 説明 |
|---|---|---|
| コンテナ | std::vector, std::list, std::map | データをまとめて保持する箱 |
| アルゴリズム | std::sort, std::find, std::for_each | コンテナ上で使える汎用処理 |
| イテレータ | 各コンテナのbegin(), end()など | 要素を順番にたどるための「ポインタ風オブジェクト」 |
| 文字列・ストリーム | std::string, std::coutなど | 文字列処理や入出力 |
これらを使うと、少ないコードで、安全に、効率よく処理を書けるようになります。
#include <iostream>
#include <vector>
#include <algorithm> // std::sort
int main() {
// 整数を要素にもつ動的配列(vector)を用意
std::vector<int> nums = { 5, 2, 9, 1, 3 };
// ソート前に中身を表示
std::cout << "ソート前: ";
for (int x : nums) {
std::cout << x << " ";
}
std::cout << "\n";
// STLのsortアルゴリズムで昇順にソート
std::sort(nums.begin(), nums.end());
// ソート後に中身を表示
std::cout << "ソート後: ";
for (int x : nums) {
std::cout << x << " ";
}
std::cout << "\n";
return 0;
}
ソート前: 5 2 9 1 3
ソート後: 1 2 3 5 9
このように、STLを活用することで、自分でソートアルゴリズムを書く必要がなくなり、バグも減らせるという利点があります。
C++でできることと具体的な活用例
ゲーム開発で使われるC++の強み

ゲーム開発の世界では、C++は事実上の標準言語と言ってよいほど広く使われています。
理由としては、
- 高速な描画処理や物理演算をリアルタイムで行う必要がある
- ゲーム機やPCのGPU・CPUを限界まで使い切るチューニングが求められる
- 大規模なチーム開発で、オブジェクト指向や設計パターンを活用しやすい
といった点が挙げられます。
例えば、ゲームの敵キャラクターをクラスで表現すると、以下のようなイメージになります。
#include <iostream>
#include <string>
class Enemy {
public:
Enemy(const std::string& n, int hp, int atk)
: name(n), hp(hp), attackPower(atk) {}
void attack() const {
std::cout << name << "の攻撃! 攻撃力: " << attackPower << "\n";
}
void takeDamage(int dmg) {
hp -= dmg;
if (hp <= 0) {
hp = 0;
std::cout << name << "は倒れた!\n";
} else {
std::cout << name << "は" << dmg << "ダメージを受けた。残りHP: " << hp << "\n";
}
}
private:
std::string name;
int hp;
int attackPower;
};
int main() {
Enemy slime("スライム", 30, 5);
slime.attack();
slime.takeDamage(10);
slime.takeDamage(25);
return 0;
}
スライムの攻撃! 攻撃力: 5
スライムは10ダメージを受けた。残りHP: 20
スライムは25ダメージを受けた。残りHP: 0
スライムは倒れた!
実際のゲームでは、こうしたクラスが数多く存在し、オブジェクト指向を活かして複雑な世界を表現していきます。
組み込みシステムやIoTでのC++活用

組み込みシステムとは、特定の機能を持った機器の中に組み込まれているコンピュータのことです。
テレビ、エアコン、自動車の制御装置、IoTセンサーなどがその例です。
これらの機器は、
- メモリやCPUパワーが限られている
- 電力消費を抑えたい
- ハードウェアと密接にやり取りする必要がある
といった制約を持つため、CやC++のように低レベル制御ができる言語がよく使われます。
C++を使うことで、
- Cと同等の低レベル制御能力を維持しつつ
- クラスやテンプレートを用いて、再利用性の高いコードを書ける
というメリットがあります。
デスクトップアプリ開発におけるC++の役割

Windows・macOS・Linux向けのデスクトップアプリケーションでも、C++は重要な役割を担っています。
特に、
- 画像・動画編集ソフト
- 開発用IDE(統合開発環境)
- ブラウザのレンダリングエンジン(例: Chromiumの一部)
など、重い処理をするアプリケーションの内部ロジックにC++が使われることが多いです。
GUI(画面)部分は別の仕組みやフレームワークで構築しつつ、パフォーマンスが必要な「中身」だけC++で実装する、という構成もよくあります。
高性能な数値計算・金融システムとC++

科学技術計算や金融システムの多くは、膨大なデータを高速に処理する必要があります。
C++は、
- 高効率な配列処理
- 並列処理・マルチスレッド対応
- テンプレートによる高速な数値型の抽象化
などにより、高性能な数値演算ライブラリや高速トレーディングシステムの実装に向いています。
C言語との違いと初心者が選ぶポイント
C++とC言語の文法の違い

CとC++は文法がよく似ていますが、C++はCを土台に多くの機能を追加した言語です。
ざっくりとした違いの例を挙げます。
| 観点 | C言語 | C++ |
|---|---|---|
| プログラミングスタイル | 手続き型が中心 | 手続き型 + オブジェクト指向 + ジェネリックなど |
| データ構造 | structのみ(メソッドを持たない) | classでメンバ関数や継承が可能 |
| 標準ライブラリ | 比較的シンプル | STLなど非常に豊富 |
| 名前空間 | なし | namespaceで整理可能 |
簡単な「足し算関数」をCスタイルとC++スタイルで比べてみます。
// Cスタイルの関数
int add_c(int a, int b) {
return a + b;
}
// C++スタイルでは、クラスのメンバ関数にもできる
class Calculator {
public:
int add(int a, int b) {
return a + b;
}
};
どちらも「足し算をする」という意味は同じですが、C++ではクラスの中に機能をまとめられる点が大きな違いです。
C++とC言語の考え方の違い

C言語は「手続き型プログラミング」が基本で、データを引数として関数に渡し、手順どおりに処理を実行していきます。
一方、C++は、
- オブジェクト指向(クラス、継承、多態性)
- ジェネリックプログラミング(テンプレート)
など、抽象度の高い設計ができるように進化した言語です。
そのためC++では、「現実世界の概念をそのままクラスとして表現し、関係性やルールをコードに落とし込む」といった設計がしやすくなっています。
初心者の方は、最初から難しい設計を意識する必要はありませんが、「C++は設計のための道具が豊富な言語」というイメージを持っておくとよいです。
C++とC言語の開発分野の違いと選び方

CとC++は、使われる分野がかなり重なっていますが、傾向として次のような違いがあります。
| 言語 | よく使われる分野の例 | 向いているとされるケース |
|---|---|---|
| C言語 | マイコン向け組み込み、OSカーネル、一部ドライバ | メモリが極端に少ない、ハードウェアに超密接 |
| C++ | ゲームエンジン、PC向けアプリ、高性能ライブラリ | 性能も大事だが、構造化や再利用性も重視 |
初心者の方が「CとC++どちらを学ぶべきか」迷ったら、まずは以下の軸で考えるとよいです。
- ゲーム開発や高性能アプリに興味がある → C++を優先
- マイコンやOS開発など、より低レベルな世界に興味がある → Cを優先
- どちらも興味がある・まだ分からない → C++を学びつつ、必要に応じてCの書き方も覚える
C++を学ぶ過程で、C由来の文法や考え方も自然と身につきますので、最初の1言語としてC++を選ぶのは十分に現実的です。
初心者がC++学習を始めるためのステップと注意点

最後に、C++をこれから学び始める方のための、おすすめの学習ステップをまとめます。
ステップ1: 開発環境の準備
まずは、C++コードを書いて動かすための環境を用意します。
代表的な方法としては、
- Windowsなら: Visual Studio、またはVisual Studio Code + g++
- macOSなら: Xcode、またはHomebrewでg++を入れてVS Codeなど
- Webブラウザ上で: OnlineGDBやpaiza.ioなどのオンラインコンパイラ
があります。
初心者のうちは、インストールが簡単でサンプルも豊富な環境を選ぶと良いです。
ステップ2: 基本構文と標準入出力を覚える
次に、画面に文字を表示したり、キーボードから入力したりする基本構文を覚えます。
#include <iostream> // 標準入出力ライブラリを使う
int main() {
int age;
std::cout << "年齢を入力してください: ";
std::cin >> age; // キーボードから整数を入力
std::cout << "あなたは" << age << "歳ですね。\n";
return 0; // 正常終了
}
年齢を入力してください: 25
あなたは25歳ですね。
このレベルで、変数・条件分岐・繰り返し・関数といったプログラミングの基本を一通り押さえます。
ステップ3: 配列・STL・クラスを触ってみる
基本構文に慣れてきたら、配列やstd::vector、std::string、そしてクラスに触れていきます。
この段階では、難しいテンプレートや高度な設計は意識せず、以下のような小さなプログラムを書いてみるとよいです。
- 複数の点数を入力して平均を出すプログラム
- 「プレイヤー」クラスを作ってHPを増減させてみるプログラム
ステップ4: 小さなアプリやゲームもどきを作る
最後に、自分で考えた簡単なアプリを一つ作ってみると、理解が一気に深まります。
- コンソールで動く「数当てゲーム」
- シンプルなメモ帳(テキストファイルを読み書きするだけでもOK)
- 簡単な家計簿(出費を入力して合計を表示)
のようなもので構いません。
大事なのは、「動くものを自分の手で完成させる経験」を持つことです。
学習時の注意点
C++は機能がとても多く、いきなり全部を理解しようとすると挫折しやすい言語です。
そのため、学習のコツとしては、
- まずは基本的な文法とSTLのごく一部だけに絞る
- モダンC++(C++11以降)を前提にした入門書を選ぶ
- 難しいところは飛ばしつつ、手を動かして書いてみる
といった方針がおすすめです。
まとめ
C++は、C言語の高速性や低レベル制御に、オブジェクト指向やSTLなどの強力な機能を加えた言語です。
ゲーム開発や組み込み、デスクトップアプリ、高性能な数値計算や金融システムなど、性能と構造化が同時に求められる場面で広く使われています。
初心者の方は、まず開発環境の準備と基本構文から始め、少しずつSTLやクラスに触れながら、小さなプログラムを作っていくのがおすすめです。
C言語との違いを意識しつつC++を学ぶことで、コンピュータの仕組みと実践的な設計力の両方を身につけることができます。
