サイバー攻撃の脅威が複雑化する2026年現在、攻撃者が使用するプログラミング言語のトレンドには明確な変化が生じています。
かつてはC言語やC++が主流でしたが、現在の攻撃者は開発効率や検出回避能力を重視し、新しい言語を積極的に採用しています。
本記事では、最新の攻撃トレンドを踏まえ、攻撃者が好むプログラミング言語のランキングとその背景を詳しく解説します。
攻撃者がプログラミング言語を選択する基準とは
攻撃者がマルウェアや攻撃ツールを開発する際、単に「書きやすさ」だけで言語を選んでいるわけではありません。
現代のサイバー攻撃において、言語選択は作戦の成功率を左右する極めて重要な戦略的判断となっています。
開発の容易さとライブラリの豊富さ
攻撃者は限られた時間の中で新しい脆弱性を突き、防御側の裏をかく必要があります。
そのため、記述が簡潔で短期間にツールを構築できる言語が好まれます。
特にネットワーク操作や暗号化、データのパース(解析)を容易に行える標準ライブラリや外部パッケージが充実していることは必須条件です。
豊富なエコシステムが存在することで、攻撃者はゼロからコードを書く手間を省き、既存のモジュールを組み合わせて高度な攻撃コードを生成できます。
検出回避性能と解析の難易度
アンチウイルスソフトやEDR(Endpoint Detection and Response)による検知をすり抜けることは、攻撃者にとって最大の課題です。
既存のシグネチャベースの検知は、長年使われてきたC++やC#のコードパターンを熟知しています。
そこで攻撃者は、バイナリ構造が複雑になりがちな言語や、セキュリティ製品がまだ十分に解析パターンを持っていない言語へとシフトしています。
コンパイルされたバイナリが難読化されやすい、あるいは動的な解析が困難な特性を持つ言語は、攻撃者にとって極めて魅力的です。
クロスプラットフォーム対応の重要性
2026年のIT環境は、Windowsだけでなく、Linuxサーバー、クラウドインフラ、macOS、さらにはIoTデバイスが混在しています。
一つのコードベースで複数のOS向けに実行ファイルを生成できる「クロスコンパイル」機能は、攻撃の効率を劇的に向上させます。
OSごとに個別のコードを書くコストを削減できるため、大規模なキャンペーンを展開する攻撃グループにとって大きな武器となります。
攻撃者が好むプログラミング言語ランキング【2026年最新版】
現在のサイバー犯罪シーンで多用されている言語を、その理由とともにランキング形式で紹介します。
| 順位 | 言語名 | 主な用途 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 1位 | Python | エクスプロイト、AI攻撃、自動化 | 習得が容易でライブラリが圧倒的に豊富 |
| 2位 | Go (Golang) | マルウェア、C2通信、ランサムウェア | 高速、並列処理、高い解析難易度 |
| 3位 | Rust | 高度なマルウェア、回避ツール | 安全性が高く、セキュリティ製品の検知を回避 |
| 4位 | C / C++ | ルートキット、低レイヤー攻撃 | ハードウェアに近い操作が可能、高速実行 |
| 5位 | PowerShell | ファイルレス攻撃、内部潜伏 | OS標準機能を悪用、痕跡を残しにくい |
1位:Python(AI・自動化の浸透)
Pythonは、2026年現在も攻撃者が最も多く利用する言語の筆頭です。
その最大の理由は、圧倒的な汎用性と開発スピードの速さにあります。
特に近年のAI(人工知能)技術の発展に伴い、攻撃者はPythonを使用して脆弱性スキャンを自動化し、標的型メールの文面を生成するスクリプトを構築しています。
ScapyやImpacketといったネットワーク操作に特化した強力なライブラリが存在することも、ハッカーにとって大きなメリットです。
スクリプト言語であるため実行には環境が必要ですが、PyInstallerなどを使って実行ファイル化(.exe)することで、標的環境への展開も容易に行われています。
2位:Go (Golang)(マルチプラットフォーム・クラウド攻撃)
Googleによって開発されたGo言語は、近年のマルウェア開発において急速にシェアを伸ばしています。
Goの最大の特徴は、静的リンクされた巨大なバイナリを生成する点にあります。
このバイナリには必要なライブラリがすべて含まれているため、標的の環境に依存せず動作させることが可能です。
また、Goのバイナリ構造は標準的なC言語などのものと異なり、逆コンパイルやリバースエンジニアリングを行う際に解析者を混乱させる特性を持っています。
並行処理(Goroutine)が容易であるため、大量のスキャンやDDos攻撃、暗号化処理を高速に行うランサムウェアの開発にも適しています。
3位:Rust(高度な回避技術とメモリ管理)
Rustは、「安全性」と「パフォーマンス」を両立させた言語として注目されていますが、その特性は攻撃者にも悪用されています。
Rustで書かれたコードはメモリ安全性が保証されているため、実行中にクラッシュするリスクが低く、確実に動作するマルウェアを作成できます。
さらに、Rustはコンパイル時の最適化が非常に強力であり、生成されたバイナリが極めて複雑になります。
多くのセキュリティ製品はRust固有のバイナリパターンをまだ学習途上にあり、既存の防御策をすり抜ける能力が高いのが現状です。
2026年には、国家支援型の攻撃グループ(APT)がRustを採用し、極めて高度なスパイウェアを展開する事例が増加しています。
4位:C / C++(根強い低レイヤー攻撃)
伝統的なC言語やC++は、依然としてルートキットやブートキットなどの開発で重宝されています。
OSの深部に潜り込み、ハードウェアやメモリを直接操作するためには、これらの低レイヤー言語が最適だからです。
攻撃者はシステムリソースを極限まで節約しつつ、アンチウイルスソフトそのものを無効化するような高度なコードをC++で記述します。
また、数十年蓄積された膨大な攻撃コードの資産が存在することも、この言語が使われ続ける理由の一つです。
5位:PowerShell / Bash(既存環境の悪用)
これらはプログラミング言語というよりはシェルスクリプトですが、攻撃において極めて重要な役割を果たします。
「Living off the Land」(自給自足型攻撃)と呼ばれる手法では、標的のPCに最初から入っているPowerShell.exeなどを悪用します。
新たな実行ファイルをダウンロードせずにメモリ上で攻撃を完結させる「ファイルレス攻撃」において、これらの言語は不可欠です。
管理者が正当な業務で使用するツールであるため、悪意のある挙動がログに埋もれやすいという利点があります。
RustやGoへ移行する背景とメリット
なぜ今、攻撃者たちはRustやGoといったモダンな言語へと移行しているのでしょうか。
そこには、防御側の技術進化に対する対抗策としての側面があります。
セキュリティ製品の検知をすり抜ける巧妙さ
従来のアンチウイルス製品は、特定のプログラミング言語に特有のバイナリパターンをデータベース化しています。
しかし、RustやGoはコンパイル時の挙動やメモリの配置方法が従来言語と大きく異なります。
その結果、既存のヒューリスティック検知や振る舞い検知のエンジンが、悪意のある挙動を正確に識別できないという事態が発生しています。
攻撃者にとっては、新しい言語を採用するだけで、検知される確率を大幅に下げることができるのです。
バイナリ解析の難読化
Go言語で作成されたバイナリは、ランタイムライブラリが静的に組み込まれるため、ファイルサイズが数メガバイト以上に肥大化します。
解析者は膨大なコードの中から、攻撃者が書いたわずか数パーセントの「悪意あるコード」を見つけ出さなければなりません。
また、Rustの所有権システムや高度な型システムによって最適化されたバイナリは、逆コンパイル結果が非常に読みづらくなります。
解析に要する時間を引き延ばすことは、攻撃者にとって証拠隠滅や次の攻撃への準備時間を稼ぐことと同義です。
開発の標準化とエコシステムの活用
モダンな言語はパッケージ管理が非常に優れており、開発チーム(攻撃グループ)内でのコード共有が容易です。
cargo(Rust)やgo mod(Go)といったツールにより、必要な攻撃用ライブラリを即座に導入し、ビルド環境を整えることができます。
これにより、個人のスキルに依存せず、組織として一定水準以上の高品質なマルウェアを量産できる体制が整ってしまいました。
最新の悪用事例:2026年のサイバー攻撃トレンド
2026年に入り、特定の言語を用いた象徴的な攻撃事例がいくつか報告されています。
Rust製ランサムウェアの台頭
最近の傾向として、大規模な企業を標的としたランサムウェアグループが、Rustへの完全移行を進めています。
Rustの高速なファイル処理能力を活かし、TB(テラバイト)単位のデータを数分で暗号化する強力なランサムウェアが登場しました。
このランサムウェアは、WindowsだけでなくLinux(VMware ESXiなどの仮想化基盤)も同時に標的とする機能を備えています。
Rustのクロスコンパイル機能を駆使し、一度の開発で多様なインフラを停止させる脅威が現実のものとなっています。
Goを用いたクラウドネイティブ攻撃
クラウド環境のコンテナやオーケストレーターを標的としたマルウェアには、Go言語が多く使われています。
KubernetesやDockerといったクラウド基盤自体がGoで記述されているため、システムのAPIとの親和性が非常に高いからです。
クラウド上の認証情報を窃取し、暗号資産のマイニングを行わせるスクリプトや、横展開(ラテラルムーブメント)を行うツールにGoが採用されています。
軽量なバイナリはコンテナイメージに紛れ込ませやすく、検知が遅れる要因となっています。
AIモデルを狙うPythonベースの攻撃
2026年は、企業が導入した大規模言語モデル(LLM)を標的とした攻撃が急増した年でもあります。
攻撃者はPythonを使用して、AIへの入力データに特殊なコードを混入させる「プロンプトインジェクション」を自動化しています。
また、学習データそのものを毒害する(ポイズニング攻撃)ためのツールも、その多くがPythonで構築されています。
企業が取るべき防御策
攻撃者が使用する言語が変わっても、防御の基本原則は変わりませんが、視点を変える必要があります。
言語特性を理解したエンドポイント保護
従来のシグネチャベースの検知だけでなく、「ファイルがどのような挙動をしているか」を監視する振る舞い検知を強化する必要があります。
RustやGoで書かれたマルウェアであっても、暗号化のために大量のファイルにアクセスしたり、不審なネットワーク通信を行ったりする挙動は隠せません。
最新のEDR製品を導入し、OSのAPI呼び出しパターンを機械学習で解析する防御態勢が求められます。
サプライチェーンリスクの管理
攻撃者が好む言語の多くは、オープンソースのライブラリに依存しています。
悪意のある開発者が便利なライブラリを装い、その中にバックドアを仕込む「サプライチェーン攻撃」への警戒が必要です。
開発部門を持つ企業では、使用しているライブラリの脆弱性を自動でスキャンするSCA(Software Composition Analysis)ツールの活用が不可欠です。
不審なバイナリの実行制限
一般的に、従業員のPC上でGoやRustでコンパイルされた野良バイナリが実行される機会は少ないはずです。
AppLockerやデバイスガードのような機能を活用し、「許可された署名済みアプリケーション以外は実行させない」というホワイトリスト型の運用が効果的です。
言語の特性に関わらず、未知の実行ファイルを安易に動作させない環境作りが最大の防御となります。
まとめ
2026年現在、攻撃者が好むプログラミング言語は、従来のC/C++から、開発効率と検出回避に優れたPython、Go、Rustへと確実にシフトしています。
特にRustやGoの採用は、セキュリティ製品の検知を困難にし、攻撃のクロスプラットフォーム化を加速させています。
このような状況下では、単に「ウイルス対策ソフトを入れる」だけでは不十分であり、攻撃者の手法や使用言語の変化をいち早く察知することが重要です。
企業は、最新の脅威インテリジェンスを活用し、言語特性に縛られない多層的な防御戦略を構築していくことが求められています。
技術の進化は攻撃者にも防御側にも恩恵をもたらしますが、常に一歩先を読む姿勢がサイバーセキュリティの鍵となります。
