営業職にとって、プログラミングはどこか遠い世界のスキルに感じられるかもしれません。
しかし、営業現場ではデータ活用やオンライン商談、SaaSツールの運用が当たり前になりつつあり、ITリテラシーの差がそのまま成果の差につながる時代になっています。
本記事では、営業職がプログラミングを学ぶべきかどうか、どの程度まで学ぶと実務で役立つのか、具体的な活用事例とあわせて分かりやすく解説します。
営業職はプログラミングを学ぶべきか?
結論から言うと、営業職がエンジニア並みに本格的な開発スキルを身につける必要はありませんが、「基礎的なプログラミング知識」を持っていると大きな武器になります。
重要なのは、「プログラマーになるために学ぶ」のではなく、営業成果を高めるための手段としてプログラミングを学ぶという発想です。
具体的には、次のようなメリットが期待できます。
1つ目は、日々のルーティン作業を自動化して、提案や顧客対応といった価値の高い業務に時間を振り向けられる点です。
例えば、Excelでの集計や見込み案件リストの更新、メールの送信など、営業職には「やらなければならないがクリエイティブではない作業」が多く存在します。
ここにプログラミングの考え方を応用することで、大幅な効率化が可能になります。
2つ目は、デジタルな提案力の向上です。
SaaSやクラウドサービスを扱う営業では、顧客も技術的な質問をしてきます。
プログラミングの基礎を理解していると、顧客の要件を正確にヒアリングし、社内のエンジニアや開発部門にわかりやすく橋渡しできるようになります。
これは、いわゆる「ビジネスとITをつなぐ通訳」のような役割であり、付加価値の高い営業パーソンとして評価されやすくなります。
3つ目は、キャリアの選択肢が広がることです。
DX推進やインサイドセールス、カスタマーサクセスなど、テクノロジーと密接に関わる職種が増えています。
プログラミングを学んでおくことで、将来的にこうした職種にピボットしやすくなり、キャリアのリスクヘッジにもつながります。
営業とプログラミングが交わるポイント
営業とプログラミングは、一見するとまったく異なる仕事のように見えます。
しかし、両者が交わるポイントを理解すると、なぜ相性が良いのかが見えてきます。

営業活動の本質は、顧客の課題を発見し、解決策を提案し、合意を得ることにあります。
一方、プログラミングもまた、「現状の課題を整理し、手順を考え、再現性のある形で解決策を実装する」という点で本質はよく似ています。
この共通点を意識すると、営業がプログラミングを学ぶことには次のような意味があります。
まず、課題の分解力が鍛えられます。
プログラムを書くときは、大きな問題を小さな手順に分けて考える必要があります。
この思考法は、商談における「顧客の課題を段階的に分解してヒアリングする」際にもそのまま応用できます。
次に、再現性のあるプロセス設計が上手くなります。
優秀な営業ほど、自分なりの「勝ちパターン」を持っていますが、それが属人的なノウハウにとどまっているケースも少なくありません。
プログラミングに触れることで、営業プロセスを条件分岐やフローとして整理する習慣が身につき、チーム全体に展開できる「仕組み化」を意識できるようになります。
また、ITツールの理解度が高まり、CRMやSFA、MAツールなどを使いこなしやすくなります。
ツールの裏側で何が起きているかがイメージできると、単なる入力作業ではなく、成果につながるデータの持たせ方や運用方法を自ら設計できるようになります。
営業職が身につけると役に立つプログラミングスキル
営業職にとって、どの程度までプログラミングを学ぶべきかは悩ましいポイントです。
すべての営業がWebアプリをゼロから開発できる必要はありませんが、「ここまで理解していると仕事で確実に役立つ」というラインは存在します。
1. ロジックと条件分岐の理解
プログラミング言語そのものよりも先に、ロジック(論理)の考え方を押さえることが重要です。
具体的には、次のような考え方です。
- 条件によって処理を変える(if文のイメージ)
- 繰り返し処理を行う(ループのイメージ)
- データを読み込んで、加工して、出力するという一連の流れ
このレベルの理解があるだけで、Excelや営業支援ツールの高度な機能を使う際にも「何をしているのか」が分かりやすくなります。
また、エンジニアに要望を伝えるときも、「どの条件で、どのような動きをしてほしいのか」を論理的に説明しやすくなります。
2. Excel関数やスプレッドシートの活用
営業職が最初に取り組みやすいのは、Excelやスプレッドシートの関数、簡単なマクロ(VBA)やスクリプトです。
これは「プログラミング的なもの」の中でも、営業現場に最も直結しやすい領域と言えます。
例えば、次のような場面で役立ちます。
- 見込み顧客リストのスコアリングを関数で自動計算する
- 過去の受注データから、業種・規模別の成約率を自動集計する
- 月次レポートをテンプレート化し、ボタン一つで更新できるようにする
ここで必要になるのは、IF、VLOOKUP、SUMIFSなどの条件付き集計や、ピボットテーブルのような分析機能です。
これらは厳密には「プログラミング言語」ではありませんが、ロジックを組み立てて処理を自動化するという意味で、プログラミングの入り口として非常に有効です。
3. PythonやJavaScriptの基礎
さらに一歩踏み込むなら、PythonやJavaScriptといった汎用的なプログラミング言語の基礎を学ぶのがおすすめです。
営業職が扱う範囲であれば、次のようなレベルを目標にするとよいでしょう。
- 簡単なスクリプトを書いて、CSVファイルを読み込んで集計する
- Webページから特定の情報を自動取得する(スクレイピングのイメージ)
- Googleスプレッドシートや各種APIと連携してデータをやり取りする
Pythonであればデータ処理が得意で、JavaScriptであればブラウザやWebサービスとの連携がしやすいなど、それぞれに強みがあります。
どちらか一つを選んで「基礎文法 + 簡単な自動化」ができるようになるだけでも、営業としての生産性は大きく向上します。
4. ノーコード / ローコードツールとの組み合わせ
最近は、ノーコードやローコードのツールが普及しており、ドラッグ&ドロップでアプリや自動化フローを作れるようになっています。
代表的なものとしては、業務アプリ作成ツール、RPAツール、ワークフロー自動化ツールなどがあります。

ノーコードツールは「コードを書かずに自動化できる」点が魅力ですが、プログラミングの考え方を理解している人が使うと、設計の質と応用範囲が一気に広がります。
つまり、営業がプログラミングの基礎を押さえておくことで、ノーコードツールを使った現場発のDX(デジタルトランスフォーメーション)をリードしやすくなるのです。
実際に役立つ活用事例
ここからは、営業職がプログラミングやその考え方を活用している具体的な事例を紹介します。
イメージが湧くことで、自分の業務にどのように応用できるかを考えやすくなります。
事例1: 見込み顧客リストの自動スコアリング
ある法人営業チームでは、毎週マーケティング部門から数百件の見込み顧客リストが共有されていました。
しかし、属性や行動履歴を1件ずつ目視で確認していたため、優先度付けに時間がかかり、せっかくのホットリードを逃してしまうこともありました。
そこで、担当営業がExcelの関数と簡単なマクロを学び、次のような仕組みを作りました。
- 業種、従業員数、問い合わせ内容、Webサイトの行動履歴などに点数を付与
- 条件に応じて自動的にスコアを計算
- スコアの高い順に並び替え、優先的にアプローチする
この結果、アプローチの優先順位が明確になり、同じ件数の架電・メールでも商談化率が向上しました。
作業時間も削減され、営業メンバーからも「狙うべき顧客が分かりやすくなった」と好評だったといいます。
事例2: 提案資料作成プロセスの半自動化
別の企業では、提案資料の作成に多くの時間が割かれていました。
顧客ごとに内容をカスタマイズする必要があるものの、構成自体は似通っているため、毎回同じ作業を繰り返している状態でした。
そこで、プログラミングに関心のあった営業が、Pythonとプレゼンテーションのテンプレートを組み合わせ、顧客情報を入力すると、ベースとなる提案資料を自動生成するスクリプトを作成しました。
顧客名や業種、導入目的などを入力フォームで指定すると、該当する実績事例や数値をテンプレートに差し込む仕組みです。
完全に手作業をなくしたわけではありませんが、「ゼロから作る時間」を大幅に削減し、「最後の磨き込み」に集中できるようになったことで、提案の質とスピードが両方とも向上しました。
事例3: 営業とエンジニアの橋渡し役として活躍
SaaSプロダクトを提供する企業では、営業が持ち帰った要望を開発にうまく伝えられず、「言った・言わない」や仕様認識のズレがたびたび発生していました。
この課題に対し、元々ITに興味がありプログラミングを独学していた営業メンバーが、要件定義のフォーマットを整備しました。

この営業は、プログラミングの基本構造を理解していたことで、「入力は何か」「どのタイミングで処理されるか」「どのような例外が起こり得るか」といった観点で顧客要件を整理できました。
その結果、仕様の手戻りが減り、リリースまでのリードタイムが短縮されました。
このように、実際にコードを書く場面が少なかったとしても、プログラミング的な思考が営業のコミュニケーション品質を高める好例と言えます。
どこまで学べばよいかの目安
営業職がプログラミングを学ぶ際に陥りやすいのが、「完璧を目指して挫折してしまう」パターンです。
ここでは、目的別にどこまで学べばよいかの目安を整理します。
| 目的 | 学習の深さの目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 業務効率化をしたい | 初級 | Excel関数、マクロの記録機能、スプレッドシートの活用 |
| データを活用したい | 初〜中級 | Python基礎、CSV処理、簡単なグラフ作成や統計 |
| 提案力を高めたい | 初級 + 用語理解 | Webやシステムの仕組み、API、データベースの基礎 |
| キャリアの幅を広げたい | 中級以上 | 1つの言語を使い、簡易ツールやスクリプトを自作できるレベル |
最初から「中級以上」を目指す必要はなく、自分の業務上の課題に直結するレベルから始めるのがおすすめです。
例えば、日々のレポート作成に時間がかかっているのであれば、まずはExcel関数とマクロの基本から着手する。
マーケティングデータやログデータを扱う機会が多いのであれば、Pythonの超入門書でCSV処理を学んでみる、といった具合です。
重要なのは、「学ぶこと」自体を目的にしないことです。
常に「どの業務を、どう楽にしたいのか」を出発点にして学習範囲を決めることで、モチベーションを維持しやすくなります。
学び始めるときの注意点と進め方
最後に、営業職がプログラミングを学び始める際の注意点と、挫折しにくい進め方を簡潔に整理します。
まず、教材選びでは、「完全な初心者向け」「ビジネスパーソン向け」をうたっているものからスタートするとスムーズです。
いきなりエンジニア向けの専門書や、高度なアルゴリズムを扱う教材に手を出すと、営業実務との距離感が大きく、モチベーションが続きにくくなります。
次に、必ず「自分の業務データ」を題材にすることをおすすめします。
サンプルデータではなく、実際の顧客リストや過去の商談データ(もちろん会社のルールに沿って安全に扱うことが前提です)を使って集計や自動化に取り組むことで、学んだことがすぐに仕事の成果に直結する実感を得やすくなります。
また、プログラミングは一人で黙々と学ぶイメージがありますが、営業チーム内での情報共有も効果的です。
例えば、「毎週1つ、便利な関数や自動化のアイデアを共有する」といった小さな取り組みから始めると、学習がチームの生産性向上につながり、周囲を巻き込みながら継続しやすくなります。
最後に意識しておきたいのは、プログラミングは「万能な魔法」ではなく、「考え方と道具」のセットに過ぎないということです。
営業の本質である顧客理解や信頼関係の構築が何よりも重要であることは変わりません。
そのうえで、プログラミングを活用して自分の強みをより発揮しやすくする、という位置づけで取り組むのがよいでしょう。
まとめ
営業職はプログラミングを学ぶべきかという問いに対して、本記事では、「エンジニア並みのスキルは不要だが、基礎的な理解と簡単な自動化ができるレベルまでは学ぶ価値が大いにある」とお伝えしました。
プログラミングの本質は、課題を分解し、論理的に手順を設計し、再現性のある形で解決することです。
この考え方は、顧客課題のヒアリングや提案の組み立て、営業プロセスの改善など、営業のあらゆる場面で生かすことができます。
また、Excelやスプレッドシートの関数、簡単なマクロ、PythonやJavaScriptの基礎、ノーコードツールとの組み合わせなど、営業が触れるべき具体的なスキルも存在します。
これらを適切な深さで身につけることで、日々のルーティン作業の効率化、データに基づく提案力の向上、エンジニアとの円滑な連携といったメリットを享受できます。
これからの営業には、コミュニケーション力だけでなく、テクノロジーを使いこなす力も求められます。
完璧を目指す必要はありませんが、自分の業務が少しでも楽になり、顧客に提供できる価値が高まるのであれば、プログラミングは十分に「投資する価値のあるスキル」と言えるでしょう。
