プログラミング学習の方法としてよく聞く「写経」。
本を写すイメージが強く、なんとなく古くさい方法だと感じる方もいるかもしれません。
しかし、正しく取り入れることで、独学でも着実に実力を伸ばせる非常に強力な学習法です。
本記事では、プログラミング写経の具体的なやり方と、挫折しないためのコツを、独学者向けにわかりやすく解説します。
プログラミングの「写経」とは何か
まず前提として、ここでいう「写経」とは他人が書いたソースコードを、自分の手で1文字ずつ写していく学習方法を指します。
日本語の文章をノートに書き写すのと同じイメージですが、対象がプログラムコードである点が違います。
「丸写し」との違い
写経と聞くと「ただの丸写し」と思われがちですが、実際には以下の点で異なります。
- 丸写し: 何も考えずにコピー&ペースト、あるいは手を動かして書くだけ
- 写経: コードの意味を理解しながら、自分の頭と手を使って丁寧に写す
写経の本質は、コードをなぞりながら頭の中で構造を追体験することです。
そのため、ただ速く打てばよいというものではありません。
写経が向いているフェーズ
写経が特に効果を発揮するのは、次のような学習フェーズです。
- 基本文法を一通り学んだけれど、実際のコードがなかなか読めない
- チュートリアルの「コピペ」から抜け出して、自分で書けるようになりたい
- 良いコードの書き方や構造を、体で覚えたい
逆に、すでに中級以上で、フレームワークや設計の試行錯誤をしている段階では、写経だけでは伸び悩むことがあります。
この場合は、写経を「一部分の技術吸収」に限定して使うのがおすすめです。
写経で得られる3つの効果
写経は地道な学習法ですが、続けることで次のような効果が期待できます。
1. コードのパターン認識が身につく
プログラムには、「よく出てくる書き方」や「定番パターン」があります。
たとえば、JavaScriptであればイベント処理の書き方、Pythonであればループと条件分岐の組み合わせなどです。
写経を通して、こうしたパターンに何度も触れることで、次第に「この場面ではこの書き方をする」という型が頭に定着します。
これは、文法の解説を読むだけでは得にくい感覚です。
2. タイピングと構文への「身体感覚」が養われる
コードは「読む」だけでなく「書く」ことで身につきます。
特に、以下のような身体的なスキルは、写経と相性が良いです。
- よく使う構文を、迷わず書けるようになる
- 波括弧やセミコロンなどの位置を、指が自然に覚える
- インデントや改行の感覚が整う
キーボードを打つ感覚と、頭の中のイメージが結びつくことで、エディタを前にしたときに手が止まりにくくなります。
3. 「プロのコードの流れ」を追体験できる
入門書のサンプルコードや、GitHubにある優れたコードを写経すると、経験豊富なエンジニアがどのようにコードを組み立てているかを追体験できます。
- どのタイミングで変数を宣言しているか
- 関数をどの粒度で分けているか
- エラー処理や例外ケースをどう扱っているか
これらは、単にソースを眺めるだけよりも、自分の手を動かしてトレースしたほうが、構造として記憶に残りやすいポイントです。
写経の基本的なやり方ステップ
ここからは、具体的な写経の進め方を段階的に解説します。
独学で取り組むことを想定し、必要な準備から詳しく見ていきます。
ステップ1: 写経するコードを選ぶ
写経の成果は、選ぶコードの質と自分との相性に大きく左右されます。
いきなり難しいオープンソースを写すのではなく、次のような基準を意識してください。
選ぶときの基準
- 自分が学びたい言語・フレームワークで書かれている
- 完成したときに「動かせる」「画面で結果を確認できる」
- 解説やコメントが付いていると、なお良い
- 量は、最初は短くてもかまわない(50〜100行程度から)
おすすめの出典としては、入門書のサンプルコード、公式チュートリアル、信頼できる学習サイトの完成サンプルなどがあります。

ステップ2: 環境を整える
写経を始める前に、できるだけシンプルでストレスの少ない環境を用意しておくことが大切です。
- エディタ: VS Codeなど、シンタックスハイライトがあるもの
- 参考コードの表示: 書籍、ブラウザ、PDFなど
- 実行環境: ターミナルやブラウザで、すぐに動作確認できる状態
ここで重要なのは、「コピペがしづらい物理的な配置」にしておくことです。
例えば、参考コードを左に、エディタを右に並べ、ドラッグでコピーするのが少し面倒な状態にしておくと、「ついコピペしてしまう」を防げます。
ステップ3: まず全体像を眺める
いきなり1行目から打ち始めるのではなく、最初にコード全体をざっと眺めて構成を把握します。
- ファイルの長さはどれくらいか
- 大きな関数やクラスはいくつあるか
- 上から下に、どのような処理の流れになっているか
この時点では細部まで理解できなくてもかまいません。
「入力」「処理」「出力」など、ざっくりとした流れをつかむだけでも、写経中の迷子になりにくくなります。

ステップ4: 細かく区切って写していく
全体を把握したら、数行〜十数行単位で区切りながら写経していきます。
おすすめは次のような手順です。
- 区切りとなるまとまり(例えば1つの関数)を決める
- そのブロック内のコードを、1行ずつ丁寧に入力する
- まとまりごとに保存・実行して、エラーがないか確認する
この「小さく区切って進める」やり方は、エラーが出たときに原因を特定しやすく、心理的な負担も減るというメリットがあります。
ステップ5: タイプしながら「声に出して説明」する
写している最中は、頭の中で、もしくは小声でコードの意味を説明しながら打つことをおすすめします。
例えば、JavaScriptで次のようなコードを写す場合:
const total = items.reduce((sum, item) => sum + item.price, 0);
ただ写すのではなく、次のように自分に説明します。
- 「items配列をreduceで畳み込んで…」
- 「sumが今までの合計で、itemが今の要素」
- 「sumにitem.priceを足して返す」
- 「初期値は0」
このように「自分の言葉で説明しながら打つ」ことで、理解と記憶の定着が大きく変わります。
効果を最大化するコツ
写経の基本手順に加えて、より効果を高めるための具体的なコツをいくつか紹介します。
コツ1: いきなり完璧な理解を目指さない
写経中、「このコードの意味が完全にはわからない」と感じる場面は必ず出てきます。
そのたびに立ち止まり、すべてを調べていては前に進みません。
最初の1周目は「7割理解できればOK」くらいの気持ちで進め、気になったところはメモだけ残しておき、あとでまとめて調べるようにしましょう。
// TODO: なぜここでmapではなくreduceを使うのか?
のように、ソース内にコメントとして残しておくのも良い方法です。
コツ2: エラーを「宝物」として扱う
写経中に出てくるエラーは、単なるミスではなく、理解を深めるチャンスです。
特に、以下のようなポイントで学びが得られます。
- タイプミス: 変数名や関数名の一貫性を意識するきっかけになる
- 構文エラー: 括弧やインデントの重要性が体感できる
- 実行時エラー: 処理の順序や前提条件に気づける

エラーが出たら、「どの行の、どの記号が原因か」「元のコードと何が違うか」を丁寧に比較しましょう。
この作業自体が、デバッグの練習になっています。
コツ3: 写経後に「少しだけ変えてみる」
ただ写して終わりにせず、写経したコードに少しだけ手を加えると、理解度が一段深まります。
例えば、次のような小さな変更がおすすめです。
- 表示するメッセージを変える
- 繰り返し回数や条件を変えてみる
- 変数名を自分なりにわかりやすいものに変えてみる
「動くコード」の状態から少しずつ変えてみることで、どこを触るとどんな影響が出るかが具体的にイメージできるようになります。
コツ4: 1日15〜30分の短時間を継続する
写経は集中力を使う作業なので、長時間ダラダラ続けるより、短時間でも毎日続けるほうが効果的です。
特に独学の場合、次のようなリズムが取り組みやすいでしょう。
- 平日: 1日15〜30分を目安に、1ブロックだけ写経
- 休日: 時間があれば、平日の復習と「少しアレンジ」を行う
「書かない日を減らす」ことが、プログラミング習得の近道です。
写経は「何から手をつければいいかわからない日」の最低限のメニューとしても活用できます。
実際の写経メニュー例
ここでは、独学者が1〜2ヶ月ほどで取り組める、具体的な写経メニューの例を示します。
あくまで一例ですが、「徐々に難易度と自由度を上げていく」流れを意識しています。
1〜2週目: 入門書のサンプルコードを写す
- 対象: 学習中の言語の入門書に載っている、小さなプログラム
- 量: 1日1つのサンプル(10〜30行程度)を目安
- 目的: 基本構文・タイピング・エラーへの慣れ
この段階では、「動いた!」という体験をできるだけ多く積むことが大切です。
3〜4週目: チュートリアルの完成コードを写す
- 対象: WebアプリやCLIツールなど、少しまとまったサンプルアプリ
- 量: 全体で100〜200行程度を、数日に分けて写経
- 目的: プログラム全体の流れの理解、ファイル分割の感覚
この頃から、写経後に「ここを変えたらどうなるか」実験する時間を少し増やしていきます。
5週目以降: 自分の興味のあるコードを部分的に写す
- 対象: GitHub上のシンプルなライブラリや、ブログ記事のコードスニペット
- 量: 関数単位・ファイル単位など、興味が持てる範囲
- 目的: 実践的な書き方や、他人のスタイルに触れる
この段階では、すべてを写す必要はなく、「気になった部分だけ写経」という使い方も有効です。

写経の「落とし穴」と避ける方法
効果的な学習法である一方、写経にはいくつかの落とし穴もあります。
独学でありがちなつまずきを、事前に知っておきましょう。
落とし穴1: 「理解ゼロの作業」になってしまう
ただの手作業になってしまうと、時間はかかるのに身につかないという残念な結果になりがちです。
この状態を避けるには、次の工夫が有効です。
- 1ブロックごとに「このコードは何をしているのか」を一文でメモする
- 自分なりの日本語コメントを加えながら写す
- 写し終えた箇所を、解説なしで「ざっくり説明」できるか確認する
落とし穴2: 写経だけで満足してしまう
写経はあくまで「インプット寄り」の学習です。
アウトプット(自分でコードを書く)がないと、いつまでも「写すことはできるが、自分では作れない」状態から抜け出せません。
避けるためには、次のような小さなアウトプットを組み合わせるのがおすすめです。
- 写経したコードの一部を、ゼロから自分で再現してみる
- 写経した内容を、ノートやブログに簡単にまとめる
- 関数名や変数名を変えても、同じ動作を再現してみる
落とし穴3: モチベーションが続かない
写経は地道な作業なので、「今日はやる気が出ない」という日も必ず訪れます。
そんなときに完全に止まってしまわないよう、事前に「ハードルの低いルール」を用意しておきましょう。
- 「1日1行だけでもいいから、コードを書く」
- 「やる気が出ない日は、エラーのある行だけ直す」
- 「同じコードを2回目として、早く・正確に写してみる」
「ゼロの日を作らないこと」が、独学で続けるうえでの最大のポイントです。
まとめ
プログラミング写経は、派手さこそありませんが、独学でも確実に力を伸ばせる、非常に実践的な学習法です。
ポイントを整理すると、次のようになります。
- 写経とは、他人のコードを意味を考えながら1文字ずつ写す練習のこと
- 基本文法を学んだ直後や、「自分で書く」への橋渡しとして特に有効
- 全体像を把握し、小さなブロックに分けて写すことで、エラーも学びに変えられる
- 写経後に「少しだけ変えてみる」ことで、理解が一段と深まる
- 「1日15〜30分」「ゼロの日を作らない」など、続けやすいルールが成功の鍵
写経は、プロでも新しい技術を学ぶときに採用する、れっきとしたトレーニング手法です。
最初は退屈に感じるかもしれませんが、続けるうちに「コードが読める」「手が自然に動く」感覚が少しずつ育っていきます。
自分のペースに合ったコードを選び、今日から少しずつ写経を取り入れてみてください。
地道な積み重ねが、数ヶ月後の大きな成長につながっていきます。
